ニューロフォリア 滾るもの
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滾るもの

とよいち小話。エロ無し。
不器用な豊久の心の治療のお話なのかも。
「ねぇ、お豊、本当に痛くないの?」
「ん、痛とね」

与一は頬をふくらませ、思いっきり傷口を指で広げてやる。
ところが豊久め、うめき声一つ上げない。
でも、体は正直でぴくりと動く筋肉の反応に、してやったりと思うしかない。
まったく、この大将の体はどうなっているのだろう。この通り痛みを感じないわけじゃない。
戦うのが楽しくて痛みを忘れるなんて、子どもじゃないか。

 与一は見えない何かに嫉妬する。

見ているこっちが痛々しいくらいの背中だ。たくましく広く大きい。
ただでさえ傷跡だらけのあの背中に、また新しく傷跡が増えるだろう。
致命傷はないとはいえ、散弾として利用した鉄くず木っ端が埋まっている。
一張羅を引き剥がすのでさえ、どれだけ時間がかかったか。
ドワーフの機転がなければ、そのまま鉛の弾をこの背中に撃ちこむ作戦だったそうだ。
まったくふざけている。自分が死なないとでも思っているんだろうか。

「いてて……与一、なんでそげん怒っちょっ?」

まだ笑える余裕があるか。

「バカ、バカ!僕が怒ってることわかってんなら、ちょっとくらい反省しなよ!」
「勝ち戦ぞ、なにを反省するこっがある」

もう、これだからいけない!この大将は『生きる』ということに、とんと無頓着だ。
そのくせ、己を殺すためにある戦場でしか『生の感覚』を得ることが
できないというのだからとんだひねくれものだ。
与一は医者ではないし豊久がほめるほど縫うのだって上手くはない。

「……どうすんの、また傷跡……増えちゃうよ……」
「今さら傷の一つや二っ増えても気になるもんか。よかニセの勲章じゃろ?」

血をぬぐって、以前縫った傷口に指を這わせる。
豊久がはじめて来たときに縫った傷口の数を覚えている。
慣れない作業、慣れない緊張感……まだ終わらないのか、
まだ終わらないのか……傷の数を数えていた。
場所もしっかりと……与一の記憶の中にある。

「あのね、こういう危ない物を引っこ抜いたり、
取れないからって傷口切ったりえぐったりするの……
どれだけしんどいかわかってるの?」

赤の洪水に目眩さえする。生温い血に指がふやける。
慣れないエルフは気絶する。
応急処置の段階まで持ち込まないと、彼らにはとても任せられない。
大事な大事な、我らの大将の体なのだ。

「ケガの……治療をする……僕の身にもなってみてよ……」

その傷口が開くんじゃないかと心配しながら見守る、僕の気持ちにもなってよ。

「こんくらいの血、与一もずんばい見てきたじゃろ」

 豊久は気軽に笑ってくれる。
肉に食い込んだ釘を抜こうとしても、与一の手にはおえないものがあった。
あんまりくやしいから豊久に声もかけずに血みどろの背中に足をかけ、渾身の力で釘を抜く。

「あいたっ!」

ようやく丈夫が過ぎる豊久が悲鳴を上げた。
与一まで叫びたくなるほど太くて錆びた釘がずるりと抜け落ちた。
こんなに汚らわしい物が、大事なお豊の背中に食い込んでいたなんて!!
……そう思った瞬間かんしゃくを起こした。

「うえぇえええん!」

十九にもなってなんて泣き声だろう。
感情の手綱がすっぽり手から抜け落ちた。
でも、決してもう嫌だなんて言わない。
豊久を守るのは与一の仕事だから。

与一は弓を握って安全な場所から火矢を射る。
たったそれだけで豊久が相手にした人間の数倍を殺しただろう。

「お豊のバカバカ!功名餓鬼のくせに大将首一つぶら下げずに、
 こんなに傷だらけになるだけなって帰ってきて!
 ……僕、がんばって手柄立てたんだからね!
 功名のためにこんなに傷だらけになるのはバカだ!
 バカバカ!大バカものだぁ!」

ずっとずっとこらえていた感情を爆発させた与一は、錆びた釘を握って、
尻もちをついたままワァワァ声を上げて泣いた。
豊久のずんぐりむっくりとした大きな体が、
与一をあっという間に山のように影で隠してしまう大きな体が迫ってくる。
与一の体を、ただ黙って抱きしめた。

「無傷でだよ……無傷でっ……」
「ああ、そいはわっぜ良かこっじゃ。おお、よしよし……」

背中をバンバン、乱暴に叩くのは大きな手。
刀を握り続けて豆だらけの分厚い手のひら。

「なんでお豊ばっかり……前に出て、皆の分までケガを負わなきゃいけないの?
 なんで僕たちは僕たちのケガを負わせてくれないの?」
「そいばかりは俺の仕事じゃっでの」

功名目指して一番乗り、真っ先に狙われるは己の命。
しかしその緊張感、向けられる殺意、全てが豊久の体を興奮させた。
戦うことが豊久にとって生きること。何よりの生の感覚。

戦場こそが豊久にとっての娑婆世界。
はっきりと踏みしめる事ができる大地。
平和は豊久には退屈が過ぎた。

豊久には与一がなぜ傷つく自分に嘆くのかわからない。
生まれた時から先祖代々伝わるいろは歌で兵法を学び、
戦場での活躍を父や仲間達が酒を酌み交わしながら語り合う。
負った傷は勲章。
褒められはしても……泣かれたことなど……多分……無い……。

「俺のために泣くは与一だけじゃ」

もしもまだ日ノ本にいるならば、あとは母か。
面影を思い出し、ふっと目を細める。

「僕だって武士だ。戦場に生を見出す気持ちはよくわかる……」

巨大な熊を前にした血の滾り。やらねばやられるという命のやり取り。
目の前で息絶える獲物の姿を見て、ああ、今日も生きることを許されたと実感する。
感謝し、獲物を喰らい、今日も生きる。

その狩りの感覚は戦場に似ている。

「だけどね……だけど……」

誰かに豊久の命を狩られると思うだけで気がどうにかなってしまいそうだ。

「お豊をどうにかしていいのは僕だけだって……」

全ての手綱を握りたい。あなたの命を、生の衝動を。

与一の激しい感情は、たまに豊久の知識の枠を超える。
豊久はただ、首を傾げる。

「ああ、もう……ここ、こんなに腫らしてるくせに……」

流れる血に、脈打つ体に、戦場緊張感にいきり立たせる豊久を知っている。

でも、与一は知っている。
もう一つだけ、豊久を無意識にいきり立たせる何かがあること。

「もう……慰めなくていいよ!それよりも背中向けて!
 そんなの見せられたら僕……も、もう!いいから!撫でなくて!」
「本当(ほんのこ)て大丈夫(だいじょっ)なのか?」
「ほんのこて!」
「……あ、ああ……」

豊久は薩摩弁で返しながらぐいぐい腕を引っ張る与一の言うとおり、背中を向ける。
与一を慰めるために、傷が開いてしまった。

……もう少しだけちゃんと、泣くのを我慢できればよかったのに
……僕もまだまだ、ダメだなぁ……

傷口をぬぐい、薬湯を塗る。取りあえずエルフたちが手術と言う名の
お針子教室の準備が終わるまで、止血処置として包帯をきつく巻いていく。

「……僕といると、安心するの?」

与一がたずねると、豊久は耳まで真っ赤にした。

何にもわかっちゃいないんだから……。
君も結局、僕を求めているということ。

「ないごてじゃろな、与一といると戦場で感じるのと同じくらい命の滾りを感じる」
「良かった。いいんだよ。それで……」

功名を立てて死ぬために生きるなんて、悲しすぎる。
そう思うのは与一の傲慢だろうか。
諸行無常を知るからこそ、戦場だけが幸せだなんて信じられない。

「ねぇ、ちゃんと傷口がふさいだら……いいよ……しようよ……」
「……あ、ありがとさげもす……」

なんだか情けない声。めずらしいなぁ。

「……こんだけ血の気抜いても、まだまだ元気になるくらい
 求められるの、悪い気しないじゃない」

与一はいたずらっぽくニヒヒと笑う。
あなたの生きる理由になれるなら、こんなにうれしいことはないから。

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>お豊をどうにかしていいのは僕だけ
与一ちゃんのこの吐露だけで私もう幸せで昇天できそうです。
糟糠の妻!健気なお内儀さま!
素敵な短編(掌編?)ありがとうございます!
もっともっと語りたいんですが、せめてひと口だけお礼を!ああもう色々お留守なお豊可愛くてかわいくてありがとうございました。

Re: タイトルなし

こちらこそコメントありがとうございます!!
わー!!語りたいなんて言っていただけただけで幸せ者です!!!

与一ちゃんは出来たお嫁さん!!えるふも押しのけてお豊のお世話を買うよ!!!
だけど一緒に居るうちにだんだんと支配したい欲求がむくむく出てくる
そんなどこか男の子な与一ちゃんにしたいです!!!www
与一ちゃんはお豊のお留守っぷりがもどかしくも苛立たしくもあるけど、
かわいいくてしゃあないんでしょうね!!!><*
そんな与一ちゃんを想像するだけでワーイ\^q^/
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大幸妄太郎

Author:大幸妄太郎
ペル2(達淳)・ドリフターズ(とよいち)に
メロメロ多幸症の妄太郎です。女装・SMが好き。
ハッピーエンド主義者。
サークル名:ニューロフォリア
通販ページ:http://www.chalema.com/book/newrophoria/
メール:mohtaro_2ew6phoria★hotmail.co.jp
(★を@にかえてください!)

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