ニューロフォリア さんびきのさむらい
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さんびきのさむらい

まだ三人とオルミーヌが出会ってない頃。
オルミーヌのだいぼうけん。
とってもくだらない。

 ああ、聞こえる。開戦の合図が。
 森の向こうに激しい砂埃が舞い上がる。
 地面を突き上げる激しい衝撃と轟音。

「虎の子が欲しいなら、虎の巣穴に入らなきゃ……行くのよ、オルミーヌ!」

突然の森の異変に、三人の侍は拠点に使っていた廃城を急いで後にした。
異世界の遺物である双眼鏡を腰に下げたバッグにしまい、
かぶっていた布を放り出し、草葉をかきわけて飛び出した。

「わ、わぁあああっ!」

気合いを入れるために、とても小さく遠慮がちな鬨の声を上げながら突撃した。
 
あの三人の素性をさぐらなきゃ。
大師匠のお役に少しでも立たなくちゃ!

長い金髪のツインテールと、大きなボールのような胸をゆらしながら駆けだした。
廃城の入り口を覆う布の帳をバッと開ける。
この連中、漂流者には違いないけれど、あんまりにクセがありすぎて、
観察しただけではとても判断がつかない。
大師匠に報告できることはいつもモヤモヤした情報ばかり。
オルミーヌのしどろもどろの報告を聞いてか、
後ろから聞こえるほかの道士たちの笑い声を聞くたびに、
オルミーヌは自分の無能さを思ってくちびるをかみしめていた。

今日こそ、今日こそは大師匠のお役に立ちたい!

今頃、あの三人の侍は森に突然現れた巨大な石壁に首を傾げていることだろう。
あの配乗を探って、少しでも素性を探らないと。

だって、あの三人と会話なんてできるわけがない!

夜中にクヒヒヒっと不気味な笑い声をあげながら、
髑髏の杯で一杯酒をあおる長髪眼帯の中年男と、
きれいな顔をしているけれど、百発百中のその弓で鳥を落としては、
次はおまえだと言わんばかりに時折こちらを見てはニヤリと笑う冷血青年。

その中に新しく加わったのは、瀕死状態、血みどろで現れたのに、
たった数日でのっそり起き上がったかと思うと、
エルフの村を襲撃したオルテの騎士団を壊滅させた恐ろしい大男。

あの戦場にこだまする「首おいてけ」という叫び声、
首を刈るたびに口が裂けるほどに笑みを浮かべながら血にまみれるその姿は、
夢に見て見てしまったほどだ。

だけど、そんな彼らもやっぱり人間で、おなかを空かせるわけだ。
そこには石畳の上に敷かれた獣の皮の上に並べられた小さな急ごしらえの
三つ膳の上、木彫りの皿の上に、焼いたばかりの鶏肉がそれぞれに並んでいた。

「……うう……お、おいしそう……!」

ただよう美味しそうな香りに思わずオルミーヌは口をあんぐり開けて、
よだれを垂らしそうになった。
彼女は真面目だけど、ひどく不器用で上手なサボり方というものを知らなかった。
しかも、その観察対照というのが、一時も目を離せない、猛獣……妖怪三人衆だ。

「そう言えば今日……まだ何にも食べてなかったんだ……」

思わずひもじくて、口に近づけた人差し指の手袋を噛んでしまう。
三人の侍がなにやらギャアギャアやっているのを双眼鏡で見守るので精一杯で、
自分の食事のことなどすっかり忘れていたのだ。
彼らの行動はいちいち謎が多くて、かわいそうに
オルミーヌはおびえて目が離せないでいたのだ。

おなかがキュルルルと情けない音を立てた。
こんがりきつね色の皮から、とろとろと輝く肉汁をしたたらせる鳥肉が
視覚まで誘惑しはじめた。

だけど、あの妖怪首おいてけを筆頭に、なんだか人を食いそうなオーラを
ドンバン出すボサボサ頭の眼帯おやじ、百発百中の弓の腕を持ち、
あの二人をいなすことのできる美青年。

あの三人が鳥肉が消えたことに気づいたら、この森を一晩中探して
オルミーヌの首をスパンとはねてしまうかもしれない。

だけど、オルミーヌのおなかはもう限界だった。
さっきからキュルキュル鳴くことをやめないのだった。

「……こ、この小さな鳥の足一つだけなら……バレないかも……」

思わず食欲に目がくらみ、おびえたオルミーヌのくちびるも
ヘラリと情けない笑みを浮かべた。
気づいたときには手袋を外して、鳥の手羽先にかぶりついた。

「お、お、おいしーい!何この絶妙な焼き加減!
 どうしてこんなに香ばしい香りがしているの?
 スモークしているのかしら?!この世界になじみすぎよね!!」

ふしぎ、ふしぎ!どうしてこんなに美味しいの?
それは空腹が感じさせる幻の味?
次から次へとオルミーヌの手は鳥肉にのびていく。

「ごちそうさまでした!」

大師匠の厳しいマナーで身に付いた食物への礼を述べ、
パンっと手を合わせた時点で、オルミーヌは我に返った。

「ひ、ひぃ!わ、私……ぜ、全部食べちゃったのぉ!?」

我に帰れば目の前には己の業の残骸が。
鳥の骨の山から遠ざかろうとしたが腰が抜けてしまって立てない。
ツインテールを逆立てて、ヒィヒィ小さな悲鳴を上げる。

「は、はわわわわ……わ、私なんてことしてしまったの!
 思わず食欲に負けてしまった……」

ちょうどいいところに杖がある。
これを使えば、へっぴり腰のオルミーヌも立てるかもしれない。
しかしこの杖、微妙な湾曲がついていてどうにも使いづらい。

「よ、よっこいしょ!」

その瞬間、木の枝がしなりにしなってベキリと真ん中から折れてしまい、
ズペっと頭から転がってしまった。
そして目の前にころころと転がり落ちてきたのは……
……晩酌に使われる……髑髏の杯。

「きゃ、キャアアアア!」

殺されるっ!殺されるっ!妖怪首おいてけに殺されちゃう!
お肉はおいしく調理されて、頭から髑髏をとりはずして二つ目の杯にされちゃう!

頭の中では鳥肉がすっかりなくなったことに怒ったあの侍三人衆が、
ドコドコ太鼓を鳴らしながらオルミーヌを巨大な鉄鍋で
たくさんのスパイスの入ったスープでグツグツ煮立てる想像が広がった。

「わ、私なんか、たたたた、食べても美味しくないわよー……」

でも、最近ちょっと体重が増えたから、脂がのってておいしいかも……
服の上からわき腹をつかんで考える。

「って!ち、違うわよっ!何考えてるの!」

でもあいかわらず腰が立たなくて四つん這いになりながら、
やっとこさっとこ帳をくぐり、侍三人衆の寝床らしきところに転がり込んだ。
石畳の上に布を敷いただけの簡素な寝床だ。

「と、とりあえず、腰が立つまで、
 ここに隠れてやりすごすのよオルミーヌ!」

最近一人ぼっちで漂流者たちの観察ばかり仕事にしてきたもので、
独り言が増えた気がする。

ところが、一番最初に潜り込んだ大きな寝床はどうにもこうにも……。

「あ、汗くさい!」

叫び声を上げてガサガサと中くらいの寝床に転がり込む。

「これは……中年の特有のにおい!」

あの闇の中でニタリニタリと笑うおそろしいざんばら髪の親父を思いだして恐怖で叫ぶ。
転がり込むようにして最後の小さな寝床にくるまった。

「……こ、ここならなんとか……へ、変なにおいもしないし……」

ところが今度は、おなかがいっぱいになって、
なかなかここの主たちが帰ってこないことで安心しきってしまい、
あたたかい寝床がだんだんと眠気を誘い出した。

「……だめよ……だめよオルミーヌ……こんなところで……寝ちゃ……」

   ◇ ◆ ◇

「ただいまーって、あああっ!」

 与一は帳をあけた瞬間に大声を上げた。

「……どげんした与一、そげな大声(うごえ)を上げて……」

豊久は大きなギョロ目を見開いて、部屋の中央に据えられた晩ご飯の残骸にわなないた。

「こらデカブツ、そこをどかんかって……あ……」

森の方で爆発音が聞こえたものだから、すわ敵衆かと駆け出したものの、
異様な物と言えば、まるで削りだしたばかりというような巨大な石壁があるだけだった。
何か文字でも彫られているかと探ってみたが何もなく、
まさかここに一夜で城でも建てようというのかと思ったが、どうにも人も材料もない。

もしもの用心のために周囲を探っていると、そこからが大変だった。
まるまるおいしそうなイノシシが目の前に現れて三人して
追いかけ回してしまったので時間がかかってしまったのだ。

「あっちゃー……狼でも入ってきたかな」

しゃがんで石畳を確認する与一の向こうでは、クンクン鼻をひくつくかせながら
豊久が部屋の中に一歩はいる。なんだかかいだことのない甘い匂いがした気がした。
それに、この鳥の食べ方は、狼の食べ方じゃない。
丁寧につまれた骨は明らかに人間の痕跡だ。

「信、この城に誰か入ってる」

与一はこの世界のエルフがはくブーツの足跡に似たものを見つけだした。
豊久もうんうんうなづいた。

「いやー、しかしこの荒らし方は物盗りのようでそうでにゃーな」

ブツクサ言いながら、信長は部屋の中を歩いた。
与一が試作していた木製の弓がポッキリおられているのを片手に周囲を見る。

「っというか、ここには盗めるような物は何一つないんだがな!」

そして、手に持った木製の髑髏の杯をポンポン投げあげて楽しそうに
ヒヒっと笑いながら部屋を歩いているうちに、普段、信長が机がわりに
使っていた箱がひっくり返されているのをみて叫び声をあげた。

「ううっそだろぉ!?せっかく、やっとこさ手に入れたインク瓶が
 ひっくり返されとる!しかも……書きかけの地図に……
 インクがすっかりかぶっとるぅ!」

その瞬間、隣の部屋の中で眠っていたオルミーヌがガバリと起きあがった。

「ひやぁあああっ!グッスリ寝てる間に帰って来てるぅ!?」

女の悲鳴に三人が顔を見合わせる。
駆けだして寝室の帳をあけようとした瞬間、
地面からものすごい轟音をたてて、石の壁が飛び出した。

あわてて入ろうとした豊久は咄嗟に前髪すれすれでよけ、
あとの二人が激突しないように腕でかばった。
勢い余ってはじかれた与一の肩を、後ろからしっかりと信長が受け止める。

「な、なんじゃあ!?こりゃあ!やい、テメェ!どこのどいつだ!
 耳長のイタズラってわけでもあるまい!」

 思わず信長が怒鳴るが、よくよく考えてみれば、言葉が通じるはずもない。

「ご、ご、ごめんなさいぃ!」

ヒィヒィ泣くような女の声が石の壁の向こうから聞こえてきた。

「ひ、日本語しゃべってる……」
 豊久の腕ではじかれて赤くなった鼻先をさすりながら与一は言う。
「ぬ、本当じゃ」

すっかりおびえたオルミーヌは男のがなり声やら、
今にも石の壁を体当たりで倒そうとする妖怪首おいてけの勢いに、
今にも気絶しそうになりながら、壁をよじ登って窓から外に出た。
お尻がつまりそうになったけど、なんとかかんとか脱出した。

「……というわけで、その……しばらく通信には出られませんでした……」

ヒィヒィとまだ今にも泣きそうな声を出すオルミーヌを心配してか、
水晶玉から聞こえる大師匠の声はとてもやさしい。

「そうか、気にすることはないよ、それは恐ろしい目にあったね。
 泣くんじゃないよ……オルミーヌ」

だけど、大師匠の声にはクスクスと笑いが混じっている。
後ろの方でもカフェトやほかの道士たちの笑い声が聞こえる。
「ふわぁあああん!笑われてるぅ!また、また私ってば……!」

お役に立とうと思ったのに、またしょうもない失敗談を語ることしかできなかった。
情けなくて涙が出てくる。

「ふふっふふふ……ご、ごめんごめん。
 みんな、おかしくて笑っているんじゃないんだよ!
 君が無事でいてくれたことがうれしいんだよ」

しょうがないなぁという感情のため息。
そして、本当にうれしそうな無事を願う声。
思わずオルミーヌの目に涙が浮かんだ。

「あと、あと大師匠様……ごめんなさい!
 大事な双眼鏡のレンズに……ヒビがぁ……」

「はいはい、わかったよ……それは元からひび割れていただろう?おちついて……
 それにしてもその話、なんだか漂流者とともに流れてきた童話に似ているね、
 三匹の熊の家に小さな女の子が迷い込んじゃう話なんだけど……」

オルミーヌは顔を真っ青にした。
熊の家に女の子が迷い込んじゃうなんて、
それはもうオルミーヌよりも大変な目にあったに違いないと思うと、
少女の身の上が心配でしょうがない。

「お、オチはどうなるんですかぁ!」
「……たしか、おいしく熊に食べられちゃうんじゃなかったかな……」
「ヒ、ヒィイイイイイ!!」

よみがえる鍋でおいしく炊かれる妄想がよみがえる。
オルミーヌの叫び声がエルフの森に響きわたった。

   ◇ ◆ ◇

その夜、三人の侍はせっかく焼いた鳥肉は食べ損ねたものの、
大きなイノシシの肉を等分して腹を満たして談笑していた。

「楽しみにしとった鳥肉食われるわ……」
「作ったばかりの弓は折られるわ……」
「大事なインクはこぼされるわ……」

はぁー……とため息をつきながら、ようやく片づいた廃城に座り込んで
天井を見上げる三人の侍。

だけど、今回の侵入者の正体を、三人はもう気づいていた。

ほら、あそこの草葉の影、今もヒィヒィ悲鳴を上げて泣いている、
金髪のツインテールがのぞいている。

「だけど、ないじゃの……にくめんの……」
「面白いからもう少し泳がせとこうぜ」
「だねぇ、害もないし、なんかよくわかんないけど、かわいいしねぇ……」

三人は今日の思い出をクスクス笑いながら語り合い、お酒をあおりだした。

END

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大幸妄太郎

Author:大幸妄太郎
ペル2(達淳)・ドリフターズ(とよいち)に
メロメロ多幸症の妄太郎です。女装・SMが好き。
ハッピーエンド主義者。
サークル名:ニューロフォリア
通販ページ:http://www.chalema.com/book/newrophoria/
メール:mohtaro_2ew6phoria★hotmail.co.jp
(★を@にかえてください!)

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