ニューロフォリア ちょっとカワイイかもって思ったから、キマグレで年下の男を拾ってきたんだけど、
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ちょっとカワイイかもって思ったから、キマグレで年下の男を拾ってきたんだけど、

詩織×達哉(達淳前提)というちょいややこしいお話。
3/31 COMIC CITY 大阪93で無料配布した小説です。
正式タイトルは
「ちょっとカワイイかもって思ったから、キマグレで年下の男を拾ってきたんだけど、
なんかナマイキに説教とかしてきてウザイんですけど。」
長いですね。パイタッチくらいの描写があります。
chokawa.jpg

※無配本と内容が全くいっしょですので、お持ちの方は楽しくないと思いますwww
 ちょっとカワイイと思ったから、年下を拾った。
 昔、家で飼ってたゴールデンレトリバーの情けない顔……それにとてもよく似た顔してるから……連れて帰ろうと思った。
 そう、犬みたいに使えばいいの。彼が欲している真実という餌を目の前にたらして、命令するの。
「ねぇ、須藤竜也を殺して」
 彼はうなずいたわ。それでいいの。

 達哉君を拳でポコポコ打ちすえる。制裁。
「だから!言ったでしょ!下着にはさわらないでって!」
「す、すまん……」
 本当によく似ている。ほら、これ、どうしていいかわからなくて困った顔、似てる。ジョンに似てる。拓也といっしょにかわいがっていたゴールデンレトリバー。
まだ拓也がいたころは私、クラブもあったし、拓也は宿題が終わらないって頭かかえてた。だから、普段はいっしょに散歩なんてできなかった。でも、二人で犬、飼いたいねっておねだりしてできた新しい家族だったから、散歩はかかさず当番制。最終的には父さんも母さんも、ジョンに夢中だった。夏休み、二人でいつも散歩に行ったわ。うれしかった。たのしかった。
「最近、本当物騒なんだから……っていうか……私だって女なのよ?他人に下着洗われて、不快な思いしないとでも思ったの!?」
 デリカシーがない。最悪。拓也だったらこんなことしないわ!あの子は心遣いのできる子だった。あなたぐらいの年までちゃんと育ってたらきっと、紳士に育ってる。

「だからっ!お風呂入るときはちゃんとこの札を表に出してって……!」
「す、すまん……」
 家から帰ってきて怒ってばかりだった。非番の朝、たまった洗濯物を干さなくちゃ……と洗濯かごを見ると、すっからかんになっていた。
 いやな予感がして脱衣所にいけば、一張羅の赤いライダースーツの上にエプロンをつけて、私の服を洗濯している達哉くんに出くわした。それが今朝のこと。
 さっきは真っ暗な部屋、不審な音がしたから、もしかしてドロボウかと思って入ったら……脱衣所に全裸でキョトンとしている達哉くんがいたのだ。ちゃんとこういう事故が起こらないように、ダンボールで急ごしらえだけど、入浴中の札もつくった。一応、男と女なのだ。最低限のルールは守ってもらわないと、安心して生活できない。
 私が怒ると、達哉くんは、ジョンみたいな顔をする。

   ◇ ◆ ◇
 警邏中、親父がいるから、あまり近づきたくないんだと言っていた青葉公園に、こそこそ入っていく達哉くんを見つけた。何かおもしろいことでもあるのかと思い、こっそりついていくと、達哉くんも誰かを尾行していた。普段は身のこなしだって軽いのに、なんだかキョドキョドしてるからすぐに、何かしら良くないことをしているのだと、すぐにわかった。刑事と言うのは、こういうびみょうな罪悪感を見抜くのが得意だ。
 誰を見ているんだろうと観察していると、どうやら、澄んだ青空のような水色が印象的な、春日山高校の制服。なんだかふわふわした印象の男の子がターゲットなのだとわかった。
 得意げにしっぽを天に向けた猫が、器用に花壇のレンガ塀を歩いている。それを追いかけて、あの少年はここまでやってきたらしい。ふわふわ笑いながら猫に話しかけている。なんだかとても危なっかしい。溝に落ちそうになったり、壁にぶつかりそうになったりするたびに、なぜか達哉くんが敏感に反応して、ひそんでいた茂みから出ようとしては、彼の無事を見届けると、安心した様子で引っ込んだ。
 何度かそんなことを繰り返す達哉くんをじぃっと見ていたが、私にいっこうに気づく気配はない。ふだんはピンピンに張りつめた様子の達哉くんからは想像もできないことだ。よっぽどあの男の子の動向が気になっているのか……?
「感心しないわね、達哉くんってストーカー趣味あったの?」
 後ろから声をかけて、警察手帳をつきだした。手帳に驚いて、私の方には目もくれない。おもしろいほど達哉くんはあわてて、散歩中だなんだといいわけを繰り返す。だけど、むっつりした表情で写った私の写真を見つけたのか、急に口をつぐむ。
 ほら、ジョンがいる。
「し、詩織さん!今日仕事じゃ……!!」
「仕事よ。達哉くんがわざわざ青葉公園に入っていくから、なにがあるのかって見に来ただけ。あれ、誰?」
 人差し指を春日山高校の彼に向けてつきだした。
「……だ、誰でもない……気にしないでくれ……」
 追求するほどに、おもしろいほどへこむから、それ以上の追求は勘弁してやった。
 そう、あの時は遊ばせてもらったので勘弁してあげたが、どうも気になって仕方がなかった。最近達哉くんを観察していて気づいたのだ。一人で考えごとをしているときや、ちょっと不安を覚えたとき、いらだちを覚えたとき、達哉くんはジッポーを取り出しては蓋をならして遊ぶクセがあった。それは、パッと見た感じ、哀愁とか、そういったものを感じてカッコよく見えないこともないけど……結構ひんぱんに取り出すものだから、それは一種のブランケット症候群というやつではないのかと思った。
 ある日、偶然だけど春日山高校のあの男の子を見かけた。今度は鳥でも追いかけていたのか、空を見上げてうれしそうに笑顔だった。そして、道路のふちにつまづいてスッテンコロリと転がったかと思うと、銀色の光をまわりにバラまいてしまった。
 あわてて彼を助けると、お礼を言われた。つやつやの黒髪が右目を隠していて、少し根暗そうな印象を受けた。けど、それよりももっと、そのホワっとした笑顔の方が強烈だった。胸には花なんかさして……いい香りがした。まるで不幸なんて知らずに育ったような、そんな笑顔。檻の中に入れて飼いたくなる感じ。一生外に出なくていいよって言いたくなる……感じ。
 バラまいたお金を拾ってあげると、恥ずかしそうにお礼を言った。全部拾ったか確認するために辺りを見回していると、銀色のライターが落ちているのを見つけた。それを拾うと、その少年はあわてて受け取り、ぺこぺこと何度もお礼を言った。これはとても、大切な宝物なんですって……。
 そのライターを見たとき、達哉くんのブランケット症候群を思い出したのだ。彼があまえたいのは、この子なのかな……となんとなく思った。

   ◇ ◆ ◇

 達哉くんがソファの上でグーグー寝ている間に、こっそりポケットから銀色のライターを取り出して隠した。めったに大声を出さない達哉くんに、その日、初めてしかられた。
「いくら詩織さんでも、これを俺から奪おうとしないでくれ!」
 ジョンから、よく吠える八百屋さんちの番犬に変身した。
「そうね。それを握ってないと安心して眠ることもできないものね」
 まるで赤ちゃんが指をくわえるように、握りしめた拳の中にはいつもジッポー。気づかれないように取り上げるの、苦労した。
「何なの?それ」
 達哉くんは黙りこくる。
「向こうの世界に関わるもの?」
 ほら、イライラしてる。戸惑ってる。ライターの入ったポケットに手が伸びる。
「どうして表面にそんな、傷がたくさん入っているの?」
 達哉くんは、しゃべらない。しばらく観察していると、ついに彼はジッポーに手をふれなかった。
 もしかして、そこに何か文字を掘りたかったの?たとえば……あのふわふわの男の子が持ってたライターと同じ文句とか。
「答えないの?」
「これは、関係ない」
「うそつき」
 ほら、ジョンの顔。だけど、だまされるものか。

 例の春日山高校の生徒と接触した。道に迷ったから教えてほしいという。
「……詩織さん……ちょっと……」
 肩を後ろからつかまれて振り返る。それが誰かは知っている。
「なに?」
「……なんで淳にかまおうとするんだ」
 とてもこわい顔をしていた。
「達哉くんが、あの子が誰か教えてくれなかったから」
 叫ぶように言う達哉くん。
「もう……もう二度とアイツには近づかないでくれ!」
 腹が立った。あなたには私をしかる権利なんてないの。
「なんでこんなにすぐに私と接触とれるくらい、近くにいたのかな?また、ストーカーまがいのこと、してたんだ?あの子は達哉くんに関係があるんだ!なのに私には教えてくれないんだ!」
 ほら、ジョンの顔。

 すっかり私はいい気になっていた。私は達哉くんの秘密を握っている。私は達哉くんのほしい情報を握っている。達哉くんの家はここ。どこにもいけない……。達哉くんは私のもの。あのふわふわの男の子、淳って言ったわね。テープに録音してあるから知ってるわ。あの子は達哉くんの親友で、仮面党のジョーカーだったっていう子だ。
「……達哉くんはあの子が一番大事なの?」
 昔、ジョンがそうやって寝てたみたいに、ソファの上で毛布をかぶって寝ている達哉くんを見て、急に胸がざわめいた。その寝顔、涙に濡れた長いまつげ、他の誰かを考えて……またこうやって泣いてたんだ。
ムシャクシャしてきて……そのほほを乱暴にぬぐった。
 そうしたら、達哉くんは目を覚ました。
「さみしいの?」
 見下すようにそう言った私に、不機嫌そうな顔を浮かべる。
「……ほっとていくれ……」
 うっとうしそうに達哉くんは反対側に体を向けた。私は達哉くんの体の上にまたがり、力いっぱい達哉くんをひっぺがして、こちらに向かせた。驚いた表情。目の端には涙の川。
「私はさみしいわ」
 そう言うと、動きを止めた。
「なんで全部話さないの?」
 私はワイシャツのボタンに手をかけて、ひとつひとつはずしていった。ブラのレースが見えたとき、達哉くんはあわてて私の手をつかんだ。
「し、詩織さん……!なにをするんだっ!!」
「……初めて私をさわったわね」
 なんで、何日もこの家にいるのに、達哉くんは私を一度もさわらなかったの?
「……あ……」
 達哉くんは驚いた表情を浮かべて、手を引っ込めた。ためらう彼をソファに押しつけ、上にのしかかる。体がふるえてる。その大きくて熱い手をつかみ、ブラ越しに胸に押し付ける。
「どうせなら最後までさわりなさいな」
 そう、私を抱いて、本当の意味で、ここの人間になればいい。逃れられなくなればいい。私を見て。さぁ……私を見るの……!
 ジョンの顔してる……カワイイと思ったその表情も、今はうっとうしくさえ思う。
「……詩織さん……あんた……本当にそれでいいのか?」
 だんだんと冷静な表情に戻っていく達哉くんを見て腹が立った。私の方が取り乱してるって言いたいの?こんな状況になって混乱するべきはあなたじゃないの?
 哀れみの目……。そんな顔しないで。
「いいの。私はあなたと一緒に暮らしてムラムラしてる。それとも、私のこと女として見れない?」
 下着を平気で洗ったり、お風呂に入ってるところを見ても呆然としていたり……それじゃあ……まるで……
「俺を……俺を道具に使おうとするな!」
 突然のゴールデンレトリバーの吠え声に、思わず手をはなしてしまった。
「そ、そうよ……あなたは道具……じっとしてるだけでいいの
……私が全部やったげる。私を満たせばそれでいいの!」
「あんたが求めるべきは、俺じゃないだろう!ごまかそうとするなよ!」
 その夜、私を突き飛ばして出ていったゴールデンレトリバーは、家に帰ってこなかった。野宿でもしたのだろうか。公園のベンチで、涙流しながら。あのジッポーを手にふるえながら寝たのだろうか。……お似合いだ。飼い主をないがしろにするからそうなったのだ。

「そうよ。達哉くんは道具なのよ」
 警察手帳に挟んだ、大事な家族写真。拓也を思い出すとつらいからって、今は珠閒瑠から出ていった両親。その隣には、うれしそうに目を細めて舌を出すジョン。そして、ジョンの体をとりまく空間が、ハサミで切り取られていた。その空間の横では、うれしそうに幼い私がピースサインなんてしてる。
「……そうよ。私も道具よ……」
 拓也の復讐を果たすための道具。だから、簡単にJOKERに電話できた。動ぜず私を殺せと命じた。私の命の価値は軽い。だから必死で勉強したし、体を鍛えた。女扱いされない刑事の仕事でもつらいと思ったことはない。
 目の前では、ショボけた顔のゴールデンレトリバー。私が全部悪いのに、彼は緑茶を買って頭を下げて戻ってきた。家に入れると、彼はそそくさとその緑茶を入れてくれた。私はそれを、飼い主らしくふんぞり返って待っていた。そして、おいしい緑茶を楽しんだ後、こうして目の前に家出した犬をおいて説教タイムのはじまりだ。
「あなたは私の共犯者。私はあなたに須藤竜也を殺せと命じた」
「……だな……」
 情けない表情を浮かべながら、両手で湯呑みをつかんでいる。
「……すまん。私情は捨てるべきだった」
 達哉くんは、さみしそうにほほえんだ。
「俺が近くにいれば、須藤は淳に近づけない……そう思っていたんだ。現に、アイツは俺の気配を感じて、淳のまわりに姿を現すことはなかった」
 しばらく湯呑みをもてあそんでいたが、困ったようにため息をついた。
「……淳を守りながら、あわよくば、須藤竜也との接触もねらっていたんだが……」
「……その淳って子と、須藤竜也の関わり、聞いてもいい?」
 きっと彼は首を横に振る。ほら。
「そうすればあんたは、淳に接触しようとするだろう」
「……そんなにあの子が大事?向こうの世界が……大事?」
「大事だ」
 すごく寂しそうな笑顔で、達哉くんは迷いなく言った。私は、はぁ……とため息をついた。彼のバリアーを破る自信がない。私が持っている真実は全部使い果たしたから……。本当なら、達哉くんがこの家に帰ってくる理由はもうないから。
 しばらくの沈黙の中、達哉くんはポケットの中でジッポーをいじりながら、目をそらした。戸惑ってるの?いらだってるの?
「……その……詩織さんは……俺の昔話なんて、聞きたいか?」
 すっと息を吸い込んだ音が聞こえたと思ったら、達哉くんはそう言った。
「……話して……もっと早く話してほしかった……」
 はじめて、達哉くんの方から……心を開いてくれた。私、どんな顔してたんだろう。達哉くんは、口のはしに笑みを浮かべた。
「十年の歳月で、俺は、何より大事だった親友の淳を忘れてしまった……淳はその間もずっと、俺のこと覚えていて……だから、ずいぶん苦しむはめになった……」
 コトン……テーブルの上に、ジッポーがおかれた。
「こっち側の世界に来て、気づいたんだ……今度は、逆なんだ
……俺が淳をずっと覚えていて……淳は俺を忘れている……」
 ジッポーを握る手に、力がこもる。
「十年の歳月って……ものすごく大きいんだ……取り返しが
つかない……」
「知ってるわ。私だってそうだから……」
 少しずつ消えていく面影。
「……拓也……」
 視界がゆがむ……。
「し、詩織さん……」
 達哉くんが戸惑ってる。私が泣いているから。
「必死なのよ……忘れないようにって……毎日毎日……殺された拓也の姿と……憎い須藤竜也のあの日の格好、繰り返して……あの光景は覚えているのに……」
 消えてゆくのよ……
「なんで……なんで拓也の笑顔……消えていくの……?」
 いつの間にか私の背後に回った達哉くんが私の体を強く、強く抱きしめる。
「詩織さん……詩織……さん……」
「ねぇ!達哉くん……おかしいわよねぇ!?なんで苦しげな表情を浮かべる拓也の首……覚えてるのに、私……」
 両親に、拓也の写真を全部持っていってもらった。私がそう望んだから。写真なんてなくったって拓也のことを絶対に私、忘れない。そばに写真なんておいておくから拓也のことを忘れるの。あまえがでるの。写真さえあれば、私の頭の中に拓也のこと置いておかなくていいって……。
「がんばってる……詩織さん……がんばってるね……」
「……あんたになんかわからないわよぉ……!」
 抱きしめる達哉くんの腕に力を込めて引きはがそうとするけど、男の力にはかなわない。
「……そうなんだ……俺はあまえてちゃいけない……詩織さんのためにも……俺のためにも……」
 ほほにポツポツと、あたたかい滴がこぼれてくる。上を向くと、食いしばった唇、強く閉じた目……こぼれ落ちる涙が見えた。
「詩織さん……星……見よう?」
「……そんな気分じゃない……」
「いい!星、見よう!」
 達哉くんは強引に私の腕を引くと、背中を押して私を寒い夜のベランダに放り出した。達哉くんは私の隣にたつと、その手を伸ばして、指をさしのべる。さまよう指先。
「達哉くん、星に詳しいの?」
「……ぜんっぜんわからない!」
 突然、達哉くんは叫ぶ。
「……バカじゃないの……」
 涙流しながら、必死で指をさまよわせるが、力つきたように腕がストンっとおりた。
「こんなもんなんだよ……こんなもんなんだ……人間の記憶なんて……」
 しばらくうなだれ、ハァーっと深くため息をつく。
「俺には好きな人がいる。今でも大好きな人が……さ」
 涙をこらえるために深呼吸をする。
「その人は星が好きで……俺が落ち込んだりすると、一緒に星ながめて……星のこと、なんだってたくさん教えてくれたんだ……」
 空を見上げる。都会だけど、今日は冷えてるし、空気が澄んでいるから、いつもよりは星が見えているかもしれない。私には、光の点が散らばっているようにしか見えない空。
「たった……一週間かそこらの間だけど……一つももらさず忘れないようにしようって思った……幸せな瞬間……全部……逃さず……でも……このざまだ。こんなもんだ……」
 うっとうしい男。
「ねぇ、でも達哉くん、覚えてたんでしょ?」
「……へ?」
「好きな人と星をながめて、元気もらったこと」
 暗くてよく見えないけど、きっとほほを赤らめてる。もじもじしながら下を向く。……ためらいがちに、ジッポーの蓋がなる。
「私も思いだした……拓也のために、刑事になろうって決めたこと……」
 拓也みたいに、悲しい思いをする子たちを出さないために、刑事になった。須藤みたいな凶悪な人間から、子どもたちを守ろうと刑事になった。
「拓也の笑顔を忘れかけてる自分に気づいても、刑事でいる意味ないなんて思わなかったのは……このおかげ……」
 少年課、宮代詩織のほこり。
「私、困ってる、悲しそうな……つらい表情の子どもたちを見ると……いろんなこと忘れちゃった……その子だけしか見えなくなってね、全力で助けようと思った……」
 それが、私の気持ち。子どもたちを守りたいと思ったこと。
「似てるよ……俺の好きだった人に……そういう……自分よりも人の幸せを願うところ……」
 ぽつりと達哉くんがいう。
「私のこと、女として見てないくせに」
 下着を洗っても平気。いくら入浴剤が真っ白だからって、お風呂を見たって動じないくせに。
「あぁ。詩織さんだって俺のこと男だと思ってないだろ」
「思ってるよ」
「思ってない。あんたは無防備すぎだ……まるで、家族といっしょにいるみたいにさ……」
 はぁ……とため息をつく。
「うぬぼれないで……あんたは飼い犬よ……拓也も大好きだった……ゴールデンレトリバーのジョン」
 ほら、その顔。
「ほんとう似てる!あははっ!ジョンって呼んでいい?」
 頭をワシワシと撫でてやる。涙が……止まらない……。
「……怒るぞ……」
 そう言いながら、達哉くんは星空を眺める。つられて私も、空を見上げる。何を誓ってるんだろう……。

   ◇ ◆ ◇

あの日、達哉くんはなんらかの覚悟を固めたみたいだった。燃える空の科学館、空を飛ぶハリボテだったはずの飛行船。そして……空の科学館から出てきたのは須藤竜也とおぼしき死体。それもこれも、すべて警察にもみ消されたけど。
「……なぁんか……ドっと疲れちゃったな……家に帰ったら達哉くんのために料理つくるか……何が好きなんだろ……男の子だから……とりあえず肉料理でいいかな……」
 スーパーの精肉のコーナーをふらふら回る。
今日の特価、ステーキ肉。
拓也って、ステーキが好きだったっけ。そう、レアステーキ。ほおばると、すごくいい笑顔になってた。
「……あ……拓也の笑顔……そうそう!そんなだった!」
 私は、ステーキ肉を手に、笑いながら泣いていた。
 ……なんて不審人物……。逮捕されてもしかたないな……。

   ◇ ◆ ◇

「もう、会えないよね……達哉くんに……」
 真っ白な病室、ベッドに寝て呆然としている私の隣では、杏奈ちゃんが寂しげにうつむいている。
「別にいいけど……せいせいするよ……あの子といると私……イライラしてばっかりだったし……」
 それよりどうしよう……いいステーキ肉……買ったのに……
「ねぇ、杏奈ちゃんってステーキ好き?」
 杏奈ちゃんは、困った顔をしながら首を傾げていたが、やがてクスクス笑いだす。あんまりに脈略なさすぎたかしら。私、子どもたちには哀しい顔、させたくないの。そのためだったら冗談も言うわ。それが少年課刑事、宮代詩織のほこりだから。
……これでいいよね、達哉くん。        ―― END

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大幸妄太郎

Author:大幸妄太郎
ペル2(達淳)・ドリフターズ(とよいち)に
メロメロ多幸症の妄太郎です。女装・SMが好き。
ハッピーエンド主義者。
サークル名:ニューロフォリア
通販ページ:http://www.chalema.com/book/newrophoria/
メール:mohtaro_2ew6phoria★hotmail.co.jp
(★を@にかえてください!)

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