ニューロフォリア 叉鬼サンプル
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叉鬼サンプル

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叉 鬼
R-18・豊久×与一/A5/80P/800円


土方戦で倒れた豊久の看病をする与一。
大将としてか一兵子としてか。
愛する人としてか大将としてか。己の生き方とは何か。
鬼より叉強き狩人、赤き鬼に弓向ける。
――鬼より叉強き狩人と赤き鬼はにらみ合う。とある架空の戦からはじまる物語。

――土方戦で負傷した豊久の治療を頑なに一人で行おうとする与一に、
    エルフたちは手を差し伸べる。豊久を思うがゆえに頑なになった心もほどけていく。

豊久の頭を包み込むようにして、手で撫でさすり、舌を動かしてせまい咥内をなめまわす。ピクンと与一の体の下で豊久のマラが反応しているのを感じて、口を放して舌なめずりした。
「ふふふ……お豊、気持ちいいんだ?」
 ついに与一のいたずらにムッとした豊久が与一の体を押しのけた。
「……ふつうに水差しで飲ませば良か……」
 それでもすぐにぴょこっと与一は胸の中に飛び込んでくる。
「……ほぉら……くちびる、まだカラカラじゃん……だから、ね?もうちょっとお水を飲もう?」
 豊久は、与一が自分の体を求めてくることを悪い風には思わない。だけど、照れ隠しにその欲求を豊久にあてはめて遊ぶのは勘弁してほしいと思う。
「……こいじゃ、何時(いっ)迄(ずい)たっても終らん」
 後頭部にできたたんこぶを撫でると、豊久は痛みに目を細める。
「ごめんね、お豊……僕がうかつなばっかりに……」
 でも、豊久は悪い気はしなかった。素直に言いはしないが、与一はもうすでに、豊久が自分を守ろうとして傷だらけの体を引きずったことを知っている。これは、与一の不器用極まりない甘えだ。子ども扱いされることを怖れて、あえて豊久を怒らせるのだ。
 与一の細い指が、なかなか水分を吸おうとしないくちびるに触れ、否応なしに舌を挿し入れられ、水が流し込まれた。
「……与一、めしが食いたか」
 先ほどは与一を助けようと火事場のバカ力が出ただけのよう
だ。また体が動かなくなってしまった。
「ごはんはダメ。お豊の体、表面だけボロボロなんじゃないんだからね!」
 ほほをふくらませて怒っているくせに、水をふくんでは何度もうれしそうに、楽しそうに口づける与一を見ると、豊久は安心し
てしまった。
 顔から落下して、この美しい顔が傷つかなくてよかったと思う。またたくたびに、きらきら光る夜のように黒い目が壊れなくてよかったと思う。体が動くなら、こんなまどろっこしい状態ではおかずに、今頃与一を押し倒していただろう。かわいく甘えるこの小さないたずら子ぎつねを「もうこうさん!」と鳴かせてやったろう。
「……口の中、それにしてもボロボロだね……」
 土方と殴りあったから、口の中が腫れ上がっているのだろう。口の肉がパンパンに膨れ上がり、咥内は何も入っていないのにギチギチに狭くて舌が動かしにくい。それに……血の味がした。
 水もすんなりとのどへ行き着かない。押し込まれた水が二人のくちびるの間からこぼれ落ちて与一の下顎をぬらし、のどをつつと通っていく。
「まずはちゃんと水分補給しないと……声、すっごくかすれてかっこわるいよ……」
 与一は豊久の口の中の血の味と、舌を転がる血の塊、そして異
様に熱い呼吸を感じて眉をひそめた。先ほどまでは元気そうにしていたが、熱が出ているようだ。ぼぉっとしてきたのか、しゃべり方も、どこかぼんやりしている。与一はくちびるを噛みしめて、弱った豊久を抱きしめた。
「……ぬぅ……腹が減った……」

――ようやく目をさまし、与一の献身的な介護で少しずつ元気になっていく豊久。
    ところが、豊久の三大欲求「メシ」が叶えられた今……次に起こる欲求は……

 与一はそんな二人の殺気に圧されていたが、木刀を打ち合い、距離を置いた豊久の腕、まだ治り切らぬ傷を押さえていた糸がブチブチ音を立てて切れ、血を吹き出した瞬間我に返った。
「止まれ!立ち会い止めいっ!!」
 気づけば、力の限りに叫んでいた。
 豊久もドワーフも、背の低い観客たちの上から叫ぶ与一に気づいた様子はない。豊久と立ち合うドワーフはまだまだ剛力同士をぶつけ合う。観客たちも夢中で周りが見えていないらしい。
「……なして、こげな腕を持っちょったのに、簡単にオルテなんぞに囚われたのやら……!」
「フン!あの場におったら、大将でもひるんださ……!」
 豊久の木刀がミシリと音を立てる。
「家族をっ……大事に思うものならばな……っ!!」
 ドワーフが決着をつけにかかった。容赦のない圧力に、豊久にめずらしく、焦りの色を見せた。
「……ッハハ!見事っ!」
 しかし、すぐにまた戦を楽しむ笑みに戻った。
 さすがに無視され続けた与一はムっとして、立てかけてあった木刀を握り、ドワーフの群に潜んだ。そして観客の波を駆け抜け、そのまま高く飛び上がる。豊久と打ち合うドワーフの兜に手をついて馬にした。そのまま体ごとぶつかる勢いで豊久に向けて刃を向ける。
 あまりにも淡々とした態度で突然飛び出した乱入者を見て、豊久はニッと笑って、構えをとった。
「おう!与一ィ!やる気かぁ?」
 全身全霊、己の使えるありとあらゆる力を込めた一撃をやすや
すと止められる。わかっていたけれど、こうもあっさりと止められると腹が立つ。それでももう一押し、もうすでにドワーフとの立ち会いによって弱っていた木刀がミシリと悲鳴を上げた。
「この、暴れん坊の……きかん坊め……!」
 力では敵わず、悔しさで歯ぎしりをしながら豊久の木刀を一度押しやり、その勢いに飛びすさる。そしてさらにもう一撃と飛びかかる。豊久をベッドまで連れて帰るには、しとめるしかない。
「ハッハッハ!俺はもうピンピンしちょっど!与一こそ、早ぉえるふ衆に弓ぃ教えに戻ったらどうじゃ!」
 直線的な動きの与一を避けようともしない。真正面から受けてもこなす自信があるというわけだ。くちびるをヘの字に曲げた。
「……君は、もう二度と体が動かなくなっていいっていうの!?」
「ないじゃ!またわけのわからんこて、腹を立てちょるか!」

――体を大事にしてほしい。命を大事にしてほしい。
    そんな与一の願いは豊久には届かない。

 重い足音が地面を響き渡った。与一はゾっとして振り返る。目の前に巨大な熊が現れた。命の危機を感じて、つばを飲み込んだ。何もよりによってこんな時に……矢筒に手を突っ込むと、引き出したのは一本のタテだった。故郷を懐かしんで暇を見つけて
作ったものだ。まさか役に立つ時がこようとは……。
 この至近距離、矢を撃つよりも、その懐につっこむ方が安全だ。遠ざかってモタモタしていれば、木をも凪ぐ、あの剛腕餌食になるだろう。
「……はぁ、はぁ……」
 与一は熊に向かって駆けだし、薄いナイフのような切っ先のタテをその熊の喉元めがけて突き刺そうとした。
「与一ィ!伏せろぉ!」
 その時、背後から野太い声がして爆発音が聞こえた。玉薬のはぜる音。与一の頭上、熊の眉間に弾丸が撃ち込まれ、鈍い音を立てて頭蓋を割る、しかし、熊は立ち直り、己の喉元に突きこまれたタテにしがみつく与一を振り払おうとした。熊の恐ろしい雄叫びさえもかき消すほどの勇ましい声が背後から迫ってくる。
「チィエエエエエエエエエエッ」
 背後に衝撃、熊との間に与一を挟んだまま、低くささやく声がした。
「目ぇ閉じて、耳ぃふさいでろ」
 与一は急いで耳をふさいで、もう一頭の熊のように大きな声の本人を見上げる。熊と取っ組むことがうれしくて仕方がないという笑顔を見ると、本当に仕方がない人だなと、まゆをひそめて目を閉じた。
 鼓膜が破れそうな破裂音。熊の首に至近距離からの種子島の一撃。さすがの巨大な熊もその勢いで不器用な後ろ足を踏み外し木々の中へと倒れ込んだ。
 与一は間近で聞いた種子島の炸裂音で頭がくらくらした。けれどこんな状況なのに、大きな体で包み込むように抱きしめられ、よく知ったにおいをかぎ、あたたかな体温に安心した。
「お豊……ありがとう」
「……ん」

◇ ◆ ◇

「俺は策を練ったりするのが苦手じゃち言うたじゃろ。この軍に必要なのは俺よりも信じゃ」
 島津がより生き残れる方を喜んで選ぶということ?でも、豊久の叔父上に対する思いの大きさは、もっと感情的なのではと思う。
「……だから、お豊はこの世界にきて、今度は信のために死のうと思っているの?」
 少しだけ眉を下げて、困ったような表情。与一も口の端をあげる。豊久のこういうふっとした本音が好きだ。
「島津の教育は何も『捨てがまれ』ばかり教えるわけじゃね。ただ島津のために死ぬが最上の死に方だと言うだけじゃ」
 たき火に新しい薪をくべる。
「俺のためにも、大勢が捨てがまった。俺の命は一人の命じゃ無か。じゃっで……じゃっで俺は……そん奴(わろ)らの分も最上の死に方をせんとならん」
「……そっか」
「だから与一には感謝しちょる。俺を、俺どんを生かしてくれた。もちっといい死に方が出来っようにと」
 昔の与一なら叫んでいたかもしれない。君を生かすために治療しているんだと。そのために……医術を学ぶんだと。
 でも、『死ぬ』という観念を通して豊久が語るそれは、確かに生きるための作法だった。豊久は生きなければいけない。己の中にある魂のために。もっともっと、いい死に方ができるようにいい死に場所を求めて生きなければならない。こんなところで死んではいけない、それが豊久の生き方なのだ。

―― 故郷を通じてようやく見えてきた二人の考え方の共通点。
     そして、軍の人々との交わりが、少しずつ二人の生き方を教えてくれる。

 終わらぬバカ騒ぎをじっと見ていても頭が痛くなるだけだ。
「……酔っ払いは敵わん」
 そして、たき火のあたたかい光が射すだけの仄暗い部屋の中にうかぶ、まばゆい白い肌の与一を見た。
「親父や叔父上も……こんな気持ちになったんじゃろか」
 こっそりと、与一の前でももらすつもりのない本音を漏らす。
「こんな気持ちって?」
 ギョっとして豊久は目をパチクリと動かした。与一が目を細めて、いたずらっぽく笑っている。
 しばらく視線を揺るがして考えている豊久をみて、与一が言う。
「……この部屋には、君の恥ずかしいところぜーんぶ見た僕しかいないんだから、言ってもいいんじゃないかな」
「うう……じゃっどん……」
「わかったろ?僕はどんだけお豊のわがままな体に泣かされても逃げないし、君がほんの少し泣いて見せたって見下したりしないし嫌いになったりしない」
 おいでおいでとベッドの上から手招いた。まだ体中が痛くて動かない。豊久はしばらくごまかすように、頭を掻きながら誰もいない部屋をきょろきょろ見回した後、申し訳なさそうにうつむきながらこちらへやってきてベッドに座った。するとすぐに、与一のあたたかい手がベッドにおかれた豊久の手を包み込んだ。
「口のかたーい、与一さんに言ってみなさい」
「……どこが固てんだ。ぷにぷにしちょっじゃねか……」
 そう言って、くちびるを指でなぞり、ほほに口づけを落とすと、与一はほほを赤らめてくすぐったそうに笑った。
 だけど、それでもしばらく口を開くのをためらいながら、首を横に振り、天井を眺めながらようやく、豊久は本音をこぼした。
「俺にはドワーフたちの魂を背負えるだけの度胸があるじゃろか、俺は親父(おやっど)や叔父上のように立派な大将でない」
 今でもそこに、見上げるような父の背中や、笑顔が見える気がした。わずか十八で永遠の別れになった、永遠に越えることができない大きな背中。戦にたてば見えるのは鬼島津と恐れられた、馬を駆って獅子奮迅する叔父上の背中。
 自分に差し向けられる安心と尊敬のまなざしを見るたび、豊久は、己が親父や叔父上になったかのように演技した。ほんの少し窮屈で、本当にこれでいいのか、豊久は心の疑問に気づかないふりをしていた。
 そのとき、衣擦れの音がして豊久の背中に与一の体がへばりついた。
「ねぇ、大将、今日向かい合ってまぐわって、与一はすごい発見をしましてござる」
「な、ないじゃ……」
 まぁた何をからかわれるのだろうかと警戒した。
「お豊の……この辺にはケガが一つもないでござるなぁ」
 そう言ってスケベ親父のようにするすると手が伸びて、豊久の胸の中央あたりをなでた。
「当たい前だ。こん辺(へ)やられてたら、け死んじゃろ」
 ふぅーっとため息をつきながら与一がもたれかかってくる。グッとのしかかる体重にほんの少し前のめりになった。
「ケガ一つないこのへん……この忠臣与一に一番最初に傷つけさせる名誉をくだされ……」
「……なしてじゃ」
 何をとんでもないことを言うのか。外から漂ってくるアルコール臭にでもやられたか?と思ったが、しかし、橙色の明かりの中、ちらりと見えた与一の横顔はひどく真剣だった。
「もし、お豊が大将にふさわしくないって思ったら、僕がここをタテで突いてお豊を殺してあげる。懐に飛び込んで、魂全て、僕が引き受けてあげる」
 雪の中さしむかう、叉鬼と熊かのように。その命を宝と思い、尊敬しあう瞬間が魅力的だからこそ、彼らは熊との戦いをやめられない。
「そげな小め体で背負えるもんか」

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大幸妄太郎

Author:大幸妄太郎
ペル2(達淳)・ドリフターズ(とよいち)に
メロメロ多幸症の妄太郎です。女装・SMが好き。
ハッピーエンド主義者。
サークル名:ニューロフォリア
通販ページ:http://www.chalema.com/book/newrophoria/
メール:mohtaro_2ew6phoria★hotmail.co.jp
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