おきつねこんこん
R-18・とよいち/P44/400円これは那須野に住む与一という名の狐の物語。
好奇心旺盛なお狐様は大の人間好きだった。
あちこち人間を追ってるうちに、哀れ足を虎ばさみにやられてしまう。
そこに通りかかった武士の一団。
島津豊久に救われた年若い狐は、彼が気になってしかたがない。
胸のときめきを初恋とも知らず、彼を追って名護屋の港、こっそり船へと乗り込んだ。
気づけば船は出港し、海の向こうの大陸へ。
小さなお狐様と大きな武士の、ちょっと切ない恋物語のはじまりはじまり。
むかしむかし、那須野に十一匹の狐の兄弟がおりました。彼らは殺生石から生まれた狐で、その妖力も殺生石になった玉藻前(たまものまえ)ゆずりだった。白面金毛も美しく、とても仲良しだが、十一匹目の子狐、与一には少しだけ困ったところがあった。それは、なぜか人間が大好きで、観察したり真似したり、あげくのはてには、こっそり拾った道具を使って遊んだりしてしまうのだった。妖術の勉強もせずに、人間の勉強ばかりをする末っ子に、兄たちは頭を抱えていた。
十匹の兄たちは、人間は戦ばかりで乱暴で、腹の底を探り合うのが大好きな関わりあうと、ろくなことにならない、くだらない動物だと、こんこんと説明したが、最初から話を聞く気のない子狐与一の耳には、右から左にぬけていくばかり。
与一は妖術の勉強は大嫌いなくせに、変化の術だけは、兄弟で一番上手でした。ころころ体を石蕗の葉っぱにこすりつけると、たちまちに人間の姿に化けて、子どもたちに紛れて遊ぶようになりました。夜の闇のように真っ黒な髪に、真っ白な陶器のお皿のような顔に、ぬばたまのようなくりくりとした瞳。子どもたちはかわいらしい与一を好いてくれました。だけど、耳と尻尾を出したまま遊ぶものだから、人間たちの親にたちまち見つかって、石を投げられ、追
い立てられてしまった。
それでも与一はこりずに子どもたちと遊びますし、人間が大好きでした。興味が止まないあまりに、一番危険だと言われている狩人の子どもと遊んだこともあります。その時に見よう見まねで覚えた弓で、まるで人間の狩人そのままに、罠を仕掛けて小動物尾つかま
えたり、鳥を射て見せるのでした。兄たちはそれを見て驚き、与一をこんこんとさとしました。
「与一、それ以上はいけないよ。狐の狩の仕方を忘れてしまってはいけない。いいかい、そんな風に人間のまねばかりをしていると、そのうち人間の姿から戻れなくなってしまうぞ」
◇ ◆ ◇
「叔父上は先に港へ急いでくだされ。俺(おい)はこのおきつねさぁの怪我を見てから港へ向かいもす」
馬上の将軍はうなずいた。
「信心こそ肝要じゃ。渡航の前に出会ったのも何かの縁じゃ。よろしく頼むぞ、豊久よ」
兵士たちはこぞって、与一を抱えた豊久に、ともに残るお許しをと声をかけたが、豊久は笑って首を横に振った。
「おまぁたちじゃ足が遅か。いつまでたってん、叔父上には追いつけもはんど!じゃっで俺一人で充分じゃ。少しでも早く出航できるよう、叔父上の加勢しっくれ!」
兵士たちはうなずくと、あわてて馬上の武将を追いかけた。
彼は、兵士たちの背中を見送ると、さっそく岩に腰掛けて、腰に下げた巾着から、貝殻に入った薬を取り出した。指につけた薬を与一の傷口に擦り付けた。痛みに震える小さな体がなんだか愛しくて、豊久の口に思わず笑みが浮かべ、そのやわらかな金毛に顔を埋めました。与一はそれがいやなどころか、感じる男の鼓動に安らぎを感じました。与一の小さな心臓がトクトクと早鐘を打ちます。豊久はそれに気づいた様子もなく、着物の袖を少し裂いて与一の細い足に巻きつけて言いました。
「すまんのう、急ぐ旅路じゃ、俺がしてやれるのはこれくらいじゃ。気を付けて家族のもとへ帰るがいい」
そう言って、やさしく大きな腕から小柄な与一を下ろしてくれました。
「……ありがとう……」
与一は男のあんまりのやさしさに、思わず人間の言葉を話してしまい、せっかくきれいに撫でつけてもらった毛を逆立てて、ぴょんっと逃げ出してしまいました。ですが、一度振り返って見ますと、それでも豊久は立ち止まって、大きく与一に向かって手を振っておりました。
「俺に感謝するのなら、叔父上のことを守ってくれればよか!」
与一は手を振る大柄な男の姿を見ていると、なんだか胸がきゅうっと締め付けられて、さみしくなりました。こんな気持ちは初めてで、尻尾もそわそわと右に左におちつきません。
与一の背中を見届けた豊久は、鎧具足をがしゃがしゃ鳴らして駆け足で、名護屋の港へ向かって走っていくのが見えました。だから、与一も辺りを見回して、痛む足をかまわず、近道を走って名護屋の港へ向かいました。与一は好奇心を止められませんでした。あの男が気になって仕方がなかったのです。
◇ ◆ ◇
豊久の怒号とともに狐が熊笹をかきわけてだっと飛び出した。狐が豊久の頭上を飛び退った次の瞬間、飛び出してきた虎の腹にズドンと一発鉛の弾をくれた。豊久はそのまま横に転がって熊笹の中に飛び込んだ。霜で白くなった体を払いながら、竹に突っ込む虎の大きさを見てあ然とした。豊久の背丈よりも大きな虎だったのだ。
「おきつねさぁ、見事じゃ!虎の大将首じゃ!」
自慢するようにツンと顔を上げながら、呼吸も荒くやってきた与一の頭を撫でる。硝煙臭い豊久の手に、自ら気持ちよさそうに鼻やあご、自分の気持ちい場所を擦り付けた。その仕草があまりにかわいらしいので、豊久の表情はゆるんでしまう。
豊久は、まだ息のある虎にとどめを刺すために、首に刃を入れた。虎の体からはぐったりと力が抜けていった。
「こげに立派な虎の肉を食えば、叔父上もさぞ長生きするじゃろう……まっこと、おまぁは島津の守り神だの!」
まだ精気を放つ虎の頭のにおいを与一はフンフンかいだ。豊久は虎を背負って立ち上がったが、足元が少しふらついていた。
ここしばらくの兵糧不足で満足な食事が出来ず、いくら与一を抱いて寝ていたとはいえ、長く続く寒い夜は耐え難く、豊久の体力は
じわじわと奪われていたのだった。
与一は心配そうに豊久の周りを歩いたり、引きずられる虎の尾を
かんで手伝おうとしたが、それでも豊久にはなんの力にもならなかった。そこではじめて、人間に変化できないことを口惜しく思った。耳も尻尾もきっちり隠れして人に化けることができるなら、豊久を手伝うことが出来るのに、と。
豊久は、昨晩から熱があったようで、無理を押して虎狩にでかけたのだ。まだ敵兵も落ち着いている今、さっさと虎を狩って、叔父上に食べてもらうつもりでいたのだろう。だけど、自分の力を過信していたようだ。呼吸も荒く、ふらふらと歩いて熊笹の中に足を踏み込んだ時だった。バチンと鉄がはじける音がして、豊久の足に錆びだらけの巨大な罠が噛み付いた。
◇ ◆ ◇
「俺は別に、オスだろうがメスだろうが関係ね。最初からおまぁを抱くつもりじゃったから」
豊久の片手が、与一の尻の双丘を割って、中指がぐっと与一の中に侵入した。
「ひっぐ……いったぁ……」
豊久は笑う。
「こん程度で痛がるとは……初物か?」
与一は痛みをこらえて震えながら、こくこくとうなずいた。
とたんに豊久は不安そうな顔を浮かべた。もしかすると、過去に何かあったのかもしれないが、与一はそれを追求しない。ただ、豊久の大きなマラが与一の中に入るかどうかといわれれば、確かに不安ではある。
「やめちゃ……だめだよ……豊久の……これが恩返しなんだから」
与一が恥ずかしそうに足を自分から広げる様を見ていると、愛しさが止まらなくなった。
「嫌なら、これも恩返し分に足しておけ。憎くなったら、俺を食い殺せ」
安心させようと豊久の口が、そっと与一のくちびるに触れた。豊久の太い指が、与一の腹をかき回す。その度に鈍い痛みが広がって泣きそうになったが、豊久の口づけで幾分安心だった。
「っぁ……ほら、与一、二本目が入ったど……」
尻尾がビクンビクンと痙攣したように動く。