ニューロフォリア 黒須先生 最後の授業(1)
2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

黒須先生 最後の授業(1)

[R-18]黒須先生 最後の授業(1)
【パラレル・年齢操作・達哉受?】

http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=1048909

久々にpixivにアップです。



とあるお方に捧げたお話。30才淳×シャドウ達哉×18才達哉。残念ながら3Pはないwww 2012年2月14日、ペルソナ発売の日からずっと淳が年齢を重ねていたら今年で30才になります。で、淳は教師を目指していたわけで、30才になって教師になった淳と、もしもその時達哉が18才だったら?というパラレル。若干クトゥルフを意識しているものの玉砕気味。あと私のある持論のせいでややこしい設定になっていますが、そんなことは気にせず楽しんでいただけたらうれしいです><*(全3話)



↓ボツになった最初のうちかいてた分をあげてみましたwww結構長いしwwwwwww
暗闇色の鏡

   1

 周防達哉は発作におびえていた。ピリピリと肌に刺激を感じ、心臓が酷く高鳴り、呼吸が困難になってくる。体が動かなくならないうちに、足を何とか動かして、校舎裏の影にとけ込むとふぅと一息ついた。セブンスの黒い制服は、特徴的な白のラインを残して周防の姿を闇に隠してくれた。
「何だっていうんだ…ったく…」
 見られている…見られている…何かの視線に気づくと、周防の体は敏感に反応し、極度の緊張に陥り、最終的には動けなくなる。それはいつどこで起こるともしれぬ発作で、ここ最近酷くなりつつあった。なにが原因でそうなるのかもわからない。かといってこれが何かの病気かと思って医者に行こうにも、親に会いに行かねばならない。親に頼るのは己のプライドが許さなかった。そもそもこの症状を知られたくなくて家を出たのだ。
 周防の中の何かが何かの視線におびえている。それはもしかすると親が原因ということもあるかもしれない、そう考えて二年の後半頃から貯めたバイト代を使って一人暮らしを始めた。親はこの症状を知らない。周防の中にはある一定の時期の記憶が曖昧になっている。それが原因なのは確かなのだが、その原因を知れば、自分という存在が壊れてしまうのではないかという恐怖があった。だから、その記憶を知っているかもしれない家族もまた、恐怖の対象でしかなかった。八方塞がり…そういうことかもしれない。
 ただ、一人でいるからといって原因が何かを調べられるというわけではないのだが、何の視線もない一人の部屋は周防の心を安らがせてくれた。彼に安らぎを与えてくれる場は、ボロアパートの一室しかない。
「今日は何だか…いつもより酷いな」
 しかも、周防は人を自然と引きつけてしまう何かを持っているらしく、人々は周防を放っておいてはくれなかった。彼はこの七姉妹学園、セブンスのカリスマと呼ばれていた。肩まで伸びる茶色の髪をぴったりと固め、襟元のハネ毛で動きを出した独創的なヘアースタイル、栗色の瞳が輝く切れ長の目元、スッと伸びた鼻筋に薄く形のいい唇。身長も高く運動も嫌わないため体型もいい。彼は人々の視線をさらうだけはあるルックスを持っている。それ故に体型の良さを引き立てるシンプルなデザインのセブンスの制服を身にまとえば、人目をさらう美男子ができあがってしまう。
 彼は視線恐怖症だった。診断を一度も受けていないので、彼自身は病名も症状も知らないが、他人からの視線を特に苦痛に思う他者視線恐怖症と呼ばれるものだった。それは彼自身が持つ完璧主義が起こすものかもしれないし、他の何かが影響しているのか…それは誰にもわからない。ただ、その精神的傷害が彼にもたらす苦痛はそれ故になお一層恐ろしい恐怖へと変わっていた。彼は常に視線に晒されるのだから。
 カリスマと仰がれるのは何も外面だけではなくて、人目を避けようとするその態度にミステリアスなものを感じた者が勝手にそれを一匹狼だクールだと騒ぎ立てる。しかもそういう人と群れようとしない態度が一部の心を苛立たせ、周防の周りにはいつもトラブルが待ちかまえていた。

 全てが彼を恐怖させた。
 どの視線が敵だ?
 どの視線が俺を発作に陥れる?

 彼はどんどんと疑心暗鬼になっていた。

   2

「周防ってさゲイなのか?」
「…ふざけるな」
 周防は栄吉の脳天に拳を落とす。
「だってよぉー…リサ、あんな一生懸命じゃないか…なんで振ってやるのさ…あんなに毎日毎日、健気に情人…情人…って」
「俺は…誰とも連みたくないんだよ」
 一つ年下の栄吉は周防がまともに目を合わせることのできる人間の一人だった。それだけだ。周防には目を合わせられる人間とそうでない人間がいた。それが非常にやっかいで、それを確認する際にまず勇気を出して相手の目をジッと見る。睨みつけているつもりはないのだが、極度の緊張で目に力が入るせいか、大概の奴らはそれだけで恐れて逃げていく。それもあって、より一層周防は孤立していた。
「よくわかんないけどさ、あんまり周りから孤立しようとすんなよ…痛々しくて見てらんねぇよ俺」
「だから言ってんだろ…わざわざセブンスまで足を運ぶことはないって」
 栄吉の着ている制服は青空のように鮮やかな春日山高校の制服だ。黒ばかりの制服のセブンスの中でこの青は目立つ。その上に栄吉はガスチェンバーというバンドのボーカルをやっており、わざわざ針金で縛って血行を悪くしてまで保っている真っ白な肌に真っ青な髪という派手な出で立ちをしているので、余計に視線をさらう。
「いやいや、足しげく通ってりゃ、そのうちタッちゃんが首をうんと縦に振ってくれるんじゃないかなぁと思ってさ」
「それはない…帰れ…」
 結局今日もメンドクサい奴に捕まってうんざりしながら、黒のフルフェフィスメットを被る。
「あーあーわかりましたよ…また明日な!」
「…じゃあな」
 軽く手を振ってバイクの上に跨り、エンジンをかける。だんだんとスピードを上げて我が家へ向かう。家に帰る途中、横断歩道で止められる。背筋がゾクリとして、例の発作が起きそうなそんな気配がした。胸が締め付けられるように苦しくなり、呼吸が困難になりそうになる。どこだ…どこからやってくるんだこの視線は…!安全な場所にバイクを停めて落ち着くという選択肢は周防にはなかった。青になった瞬間に飛ばした。何者かから送られる視線が怖い。

どこから?誰の視線で?
わからない…わからない…わからない…

 次の日、いつものようにリサに絡まれた。リサはしつこい上に女の子なので、あんまり無碍な扱いをすると周りからの目が痛い。周防はそれが恐ろしい。しかし、不思議なことに、リサの視線もまた、あまり周防に恐怖をもたらさないものなのだ。一度、性別のせいで発作が起こるのかと、リサと見つめあったことはあったが、リサの勘違いを招いただけで、なんの結果も得られなかった。
「あのね、今日は情人にお願いがあるんだー!私の友達でハナジーって言ってねぇ!新聞部の部長やってんだけど、情人にインタビューお願いできないかなぁって!ねっ情人の好きなものおごるから…ちょっとだけ時間ちょうだい!」
「…っやめてくれ…」
「どうしても!お願いできませんか?」
 目の前に長い黒髪のかなりふくよかな少女が手を合わせて下を向いていた。どうやら知らない間にリサに誘導されてしまっていたらしい。
「もし何か知りたい情報があれば、私、お手伝いできると思いますし…!」
「この子がさっき言ったハナジー」
 リサが腕を広げて紹介する。
「目立つようなことはしたくない…」
「やーん情人ってば謙虚なんだからー!」
「謙虚とか…そんなんじゃ…!」
 リサから紹介されたハナジーと言われた少女が顔を上げると、真っ黒な瞳をこちらに向けてきた。瞬間、周防の心が恐怖で悲鳴を上げた。胸が苦しくなり、目眩がする。まるで貧血の症状だ。
「悪い…今はちょっと…体調が悪くて…」
「本当だ!情人顔真っ青…っておーい!」
 周防は走り出した。頭がくらむがそんなこと気にしてはいられない。とりあえず隠れなきゃ…隠れなきゃ…!あの視線から隠れなきゃ!強迫観念のような者が周防の背中を押す。
 突然誰かにぶつかった。一瞬白衣が見える。
「痛っ!」
 男の声だ……周防はそのまま相手を確認せぬままに気絶した。

 気がついたときには保健室に寝かされていた。ひどくしんとしている…。昴輝くセブンスの校章をデザインした時計を見ればもう七時四十分を指していた。もう体育系のクラブの生徒たちですら帰る時間だろう。時間を無駄にしたなと思いながら、ふらふらと立ち上がる。
 誰もいない寂しい廊下を歩いていると、理科準備室にさしかかったとき、小さく何度も鼻にかかったようなうめき声が聞こえてきた。何だ?と眉をひそめて理科準備室を覗くと、とんでもないものが見えた。白衣を着た男と、テーブルの上に寝た裸の男が絡み合い、どうみても性交としか思えぬことを行っていた。
「なんだよ…学校で何やってんだよ…」
 周防は嫌なものを見たなと眉をひそめて顔を逸らそうとした。
「黒須…せん…せぇえっ…」
 その時、聞いた声があがり、思わずもう一度理科準備室を覗く。白衣の男性が相手にしている裸の男は、見たことのある茶色の髪の毛をしていた。
「いっ!」
 赤い目を潤ませ、流れ出る涙を頬が伝い、甘えるような声を上げるその男は、周防そのものの顔をしていた。あわてて口元を両手で押さえ込み、見えないように柱に隠れる。心臓が鼓動を上げている。嫌な汗が額を伝い、流れ落ちていく。
 --誰だ?あの赤目は誰だ?俺なのか?でもあいつ…見たことがある…それに相手は黒須?あの物理のか?
「いっつぅ…あっ…せん…せぇ…もっと…強くっ!」
 荒い息、だんだんとエスカレートしている周防の声にそっくりな赤目の声。
「やめてくれ…やめてくれ…」
 周防は知らぬ間に呪文のように同じ言葉を繰り返す。心の中で訳の分からぬ葛藤が始まっていた。逃げたいという当然の欲求と、そしてもう一つ…自分には不可解な行為の一部始終を見ていたいという欲求。自慢の髪型も乱れるほどに指を茶色の髪に食い込ませ、苦悶する。
「俺は…なんで…!」
 なんとか這いずるようにその場を離れ、気づかれぬ距離になると周防は走り出した。駐輪場に駆け込み、バイクに乗る。乱暴にエンジンをかけるといつもより乱暴な運転で我が隠れ家へと飛ばした。

 家についても、ちっとも気分は収まらない。自分にそっくりな赤目が上げた、自分としか思えぬあえぎ声が耳朶に残っている。イライラしながらズキズキと痛みを訴えるものを露出し、しごきあげる。一度も行為中の顔を見ることのなかった黒須を想像しながら。何でこんな風な行為になるのかはわからない。黒須を意識したことなど一度もないはずだ。だけど、周防の瞼の裏には赤目は見えない。
「なんだよっくそっ!」
 どろどろと溢れ出す精液を乱暴に掴みだして固めたティッシュペーパーの中に吐き出した。
「はぁっ…うっ…黒須…せんせぇ…」
 目の端から、知らぬ間に涙がこぼれ落ちた。自分を見つめる優しげな黒い瞳がほしい…優しく俺の名を呼んでほしい…。なんでこんなに相手のことを鮮明に想像できる?何で俺は泣いている?何で俺は…黒須を思ってこんなことをしている?相手はただの…教師のはずだろう?



 物理の授業中、じぃっと黒須の細い背中を見守る。あの夜みた嫌な光景を思い出すと、自分の知らない思いが沸き上がり、混乱するようになった。今まで黒板にノートの内容を書き写していた黒須は、くるりと振り向いて説明を始める。周防は自然と黒板を見て、真剣にノートを写し始めた。
 黒須の声は低く、優しく響いてくる。目の端に、ちらりと優しげな黒須の表情が映ると、周防はさっと窓を向いた。顔が真っ赤になり、鼓動が激しくなる。昨夜、あんなことをしてしまったから気まずいのだろう。でも、ふと違和感を覚えてもう一度、ちらりと目の端に黒須を映す。結局違和感の正体はわからぬまま、物理の授業は終わってしまった。

 なんとなく放課後、理科準備室の中を覗いてみた。中には誰もおらず
少し安心した。帰ろうとしたとき、ふと女子に声をかけられる。
「あ、あの周防先輩…」
 昨日リサに連れられていたハナジーとかいう女子だった。
「昨日はすいませんでした…体調悪いのにつきあわせてしまって…」
「いや…リサはいつもあんな感じだから…慣れてる…」
 何が原因かは分からないが、このハナジーという少女の目も、周防にとっては恐怖の原因だと解っている。あまり関わりたくないなと思いながら、居心地悪そうにポケットに手を突っ込んで、片足に体重を預け、ふと床を見る。
「この理科準備室に放課後……周防先輩がよく出入りしてるって噂、聞いて…ここなら会えるかなって……ちゃんと昨日のことお詫びしたかったんです!ごめんなさい!」
「わ、詫びなんていい…」
 何か紙袋を押しつけられ、大きな体を揺らしてハナジーは駆けだして行ってしまった。何かと思ってピンク色のかわいらしい紙袋を開けると、中からでてきたのは甘い香りを放つドーナツだった。周防は顔をしかめた。甘いものは苦手だった。
「ん…まぁしかたないよな…」
 周防自体が人を避けているから、自分の好みがどんなものかなんてわかりはしないだろう。
ーーにしても……俺が理科準備室によく出入りしているって……?
 妙な違和感を覚えつつ、理科準備室をのぞき込む。黒須と一心不乱に混じりあう自分そっくりの赤目……。
「まさかなぁ……」
 その時、白衣を身につけた背の高い男が曲がり角から姿を現す。細身の体に闇を紡いだような黒い髪。ぞくりとして、急に体が動かなくなる。例の発作が突然現れだした。先ほどあったハナジーのせいだろうか?
「……君……今日もここにきていたの?」
 少し不満げな黒須の声、いつもと微妙に雰囲気が違う気がする。酷く冷たい…そんな声。
「うっ…」
 突然呼吸がまともにできなくなった。息を吐いてばかりいて喉をヒューヒュー言わせる周防を見て、黒須は慌てて理科準備室に引き込むと、手に持ったピンク色の紙袋を取り上げて中身を机に出すと、周防の口元に渡した。苦しさの余りに目の前がかすみ、何が起こっているのか周防にはわからなかった。ただ。優しい手が、何度も周防の背中をなでさすっている。
「どうしたの?……大丈夫かい?」
 袋がはちきれんばかりに吐いた息ばかりがたまってくる。
「紙袋を見て、ゆっくり呼吸をするんだ……大丈夫……ほら……ちゃんと君は息を吸えているよ……」
 やがてゆっくりと紙袋がしぼんでふくらんでを繰り返し出す。涙のにじんだ周防の栗色の瞳に、ようやく安心の色が浮かんだ。黒須は、傍で微笑んでいた。優しげな黒い瞳を見ると、なぜか口が勝手に動いた。
「せんせ……俺のこと……許して……くれる……の?」
 ぶわっと涙が溢れ出す。
「そうか……達哉君……ようやく僕を見てくれたんだね……」
 周防はぎゅっと黒須に抱きしめられた。
「久しぶりにあった君は、決して僕を見ようとしないから、どうしたのかなと思っていたよ……」
ーー黒須先生は…俺のことを昔から知っていたのか…?
 ……思いだそうにも思い出せない。ただ、抱きしめられることがうれしかった。顔を上げると、少し中性的にも見える黒須の顔がすぐ近くに見えた。女生徒から人気があるのも解る……とても穏やかで優しい。こんな顔をしていたのかと、妙な違和感を覚えている。そうだ、忘昨晩の妄想の姿と実際の黒須の姿、それは周防が想像している黒須の姿の方が若い姿だったのだ。なぜそんな若い頃の黒須の姿を知っているのか、思いだそうにも思い出せなかったけれど…
 記憶を探るために黒須の表情をまじまじと見る。それにしても、こんなにじっくりと黒須の顔を見るのは初めてだと思った。いつも授業中、黒須と目が合うと発作が起こるので避けていたからだった。
 白く透き通るような肌、艶やかな長い黒髪が片目を隠し、その先にある瞳を隠している。少し首を傾げていくと、徐々にその穏やかな黒い瞳が映る。どきどきしながら、そっと目をのぞき込んだ。暗い暗い…闇の黒…。優しく細められるけれど、やっぱり恐怖が勝り、目をそらした。
「先生……離して……」
「あ、ごめんね」
 もっと細いと思っていた腕も少したくましくなり、包容力も増し、幾分胸板も厚くなって全体的に力強くなった。穏やかさはそのままだけれど、記憶よりももっと男性的になっている。
「そういえば、達哉君は甘いもの、食べれるようになったんだね」
「…え?」
 やっぱり気のせいではないのだ。黒須は確実に周防のことを知っている。しかも、周防の甘いもの嫌いを知るほどに、親しい関係。
「ほら、ドーナツ」
「あ、いや…それは…押しつけられただけだから…」
「もしかして女の子からもらったのかい?ちゃんと食べてあげなよ?」
 黒須はそれだけ言うと、微笑んで理科準備室を出ていこうとした。
「黒須先生、俺…先生と一緒にいた記憶がないんだ」
「……?記憶がない?」
 ドアの前で立ち止まる白衣の背中。
「俺、視線が怖いんだ……じっと見つめられたりすると、吐き気がしたり、動けなくなったり……発作が起こる……」
「さっきの呼吸困難も発作の一つ?」
 戻ってきた黒須はしゃがみ込んで周防と視線を合わせる。しかし、周防はやはり黒須の視線をまともに受けることができずに頬を赤らめて視線を逸らした。
「あ、ごめんごめん……怖かった?」
「い、今のは違う……少し……恥ずかしかった」
 周防がそういうと、黒須の大きくて優しい手が茶色の髪を優しくなでた。
「そうか、僕は達哉君に嫌われていたわけじゃなかったんだね……安心したよ」
 優しく微笑むその笑顔、机の上に座った周防に視線を合わせようとする態度、慣れたように髪の毛を優しくなでる黒須……。
「先生は、十一歳の頃の俺を知っているのか?」
 周防に対するその態度は、子どもに接するもの。先生として高校生に接するそれとも違う。そして、ぼやけた記憶の中の若い黒須……。消えた十一歳の記憶。それはもしかすると、視線を怖がる周防の原因がわかるかもしれないヒントだった。
「あぁ、君のお兄さんの家庭教師をしていたよ」
「俺、十一歳の頃の記憶がないんだ!何があったか教えてくれ!もしかするともう訳の分からない視線におびえることもなくなるかもしれないんだ!」
 縋るように白衣の袖をとって腕を揺する。
「原因はわからないこともない……だけど、君、覚悟はできるかい?すっかり失ってしまうほどショックだった記憶を、もう一度体験するかもしれないんだよ?」
「大丈夫だ!これから先、一生この発作に悩むくらいなら……一時のショックくらいどうだっていうんだ!」
「じゃあ、一度僕の家にくるかい?僕は詳しい原因はわからない。でも君と僕が最後に関わったのは僕の家だった」
 周防の体がびくんと震え上がる。
「黒須先生の……うち……」



 周防は黒須の家を前にしていた。大きく立派な洋館で、ホラー映画にでも出てきそうだなと思った。恐る恐るチャイムを鳴らすと、黒須の声が聞こえた。
 迎えにきてくれた黒須とともに、少し広い庭を歩く。下手をするとお化け屋敷にも見えるその洋館は、花壇に植わった美しい花たちのおかげで少し救われているように見えた。
「なんか、古そうな建物だな」
「…そうか、あの事件が起こったのは君が生まれる前だったかな?プレイアデス七姉妹を名乗る者が立ち上げた、新興宗教《星の知恵派教団》が使っていた建物なんだ」
「……そんな家によく住めるな」
 素直に眉をひそめる周防を見て、黒須は笑う。
「僕の父さんが、とある研究をしていてね、その一環だった。僕も最初はこの家が怖かったさ。でも今はもう……この家じゃないといけなくなったからね」
 表情を伺えない周防には、黒須がどんな気持ちでこの家のことを語るのか、想像はできない。
 大きくて重厚な木の扉を開くと、埃っぽいにおいが漂ってくる。吊りランプの形をした照明の中に橙色の電球が入っており、薄暗く闇を照らしている。
「母がね、とてもおしゃれな人で、雰囲気をとても大事にする人だったんだ。この家にはこういう照明の方が似合うでしょうって」
 黒須は決して振り返らずに、淡々と家族の話をする。
「一人暮らしなんだな」
「うん……達哉君は知らなかったかな?」
「……わからない」
 ただ、少し記憶はある気がするのだが、はっきりと知っているとはいえない虚ろな記憶。

「君も大変だよね。視線が怖くて、一部記憶障害か」
 リビングに通されると驚いた。《星の知恵派教団》がどんな集団化は知らないが、きっとここが礼拝室立ったに違いないと思った。ステンドグラスと柱が交互にして配置され、色鮮やかな太陽光を受け入れている。
 石畳の上に置かれた赤の絨毯、その上に木製の椅子と、重厚な木のテーブル。ここは一瞬中世ヨーロッパかと勘違いさせるのには十分だった。
「でも、視線にも種類があるみたいで、怖かったり怖くなかったりするんだ……それが何か解れば、それだけで生活が楽になるとは思うんだがな……」
「達哉君……僕を見て……」
 言われるがままに顔を上げ、恐る恐る黒須の顎を見る。口の端が柔らかく持ち上がり、笑みを浮かべている。
「もっと、視線をあげて……」
 周防は目を伏せて首を振る。
「ダメだよ、何のために君をここに連れてきたと思ってるの?」
「なっ……何のためだよ……」
「僕は、君の役に立ちたいんだ、少しでも、教師としてね」
 周防は徐々に視線をあげ、その通った鼻筋をたどり、真っ黒な瞳と目があった。ゾクリとしてすぐに目をそらす。
「……だめかぁ……敵意のない視線なら、平気じゃないかなと思ったんだけど……」
 なんとなくステンドグラスに描かれた絵を見る。七つの絵が飾ってあり、異形の怪物たちが脅すような目線を送る、太陽の光に透過され、煌めいているというのに、色合いや描かれた者のせいで恐ろしく忌まわしい雰囲気を漂わせていた。
「視線、感じる?」
 黒須の質問にこくんとうなづいた。このステンドグラスの間は、とても明るいのにとても暗い。異形の怪物たちから発せられる、生々しい視線がいつ喰らってやろうかとか睨めつけているように思った。
「ここに描かれているのは総て同じ化け物なんだというよ。もしかすると君は、このステンドグラスにおびえて視線恐怖症になったんじゃないかと思ったんだけど……」
「なぁ、なんでこんな所にすんでいる?」
 周防はあちこちから注がれる視線に耐えきれず、椅子の上で体を縮こまる。その姿を哀れに思ったのか、黒須がそっと手を握る。
「ここはね、僕の父さんと母さんが最後までいた家なんだ」
 黒須はゆっくりと語りだした。八歳の頃、父がこの家で行方不明となり、母とともに引っ越した十年後の十八歳、帰らぬ母を捜していると、なぜかこの家で無惨な死に方をしたことを告げた。
「だから僕はここにいるんだ」
 周防には、その理屈はわからなかった。

 次の日もまた、次の日も黒須家を訪れながら、視線恐怖症を取り除く訓練を重ねた。七人の黒い異形のステンドグラスと、黒須だけが周防を見つめる。いつもテーブルには、視線を逸らすのに程良く、よい香りを放って周防の心をいやしてくれる花を毎日花瓶に挿してくれていた。
 黒須はずっと周防の傍にいてくれた。確かに視線恐怖症を取り除く訓練のためにきているのだけど、それだけでは時間はつぶせない。黒須は周防の勉強を見てくれた。そして、たまにふと思い立ったかのように瞳を見ろという。何度か試し、呼吸が困難になりそうになるとすぐに介抱してくれた。それがなんだか懐かしいように感じて、不思議な気持ちになった。
「君は覚えているかな?僕は昔、君のお兄さんの家庭教師をしていたんだよ」
「……そうなのか」
 黒須は困ったように首を傾げた。訓練のおかげで、とりあえず目を見ることはできなくても、黒須の顔下半分ならしっかりと見ることができるようになっていた。黒須は優しく根気強い。


ボツなのでここまで。
リサ・栄吉・ハナジーが出てますねwww
余分なキャラが出てくると余計に混乱しそうだったのでやめましたwww
あと三人称だったのを達哉の一人称に変えたとか……。
結構試行錯誤してたよなぁ。

これがどう変わったかpixivでご確認いただけたら嬉しいです><*

コメントの投稿

非公開コメント

sidetitleプロフィールsidetitle

大幸妄太郎

Author:大幸妄太郎
ペル2(達淳)・ドリフターズ(とよいち)に
メロメロ多幸症の妄太郎です。女装・SMが好き。
ハッピーエンド主義者。
サークル名:ニューロフォリア
通販ページ:http://www.chalema.com/book/newrophoria/
メール:mohtaro_2ew6phoria★hotmail.co.jp
(★を@にかえてください!)

sidetitle最新記事sidetitle
sidetitleカテゴリsidetitle
sidetitle最新コメントsidetitle
sidetitle月別アーカイブsidetitle
sidetitle検索フォームsidetitle
sidetitleリンクsidetitle
sidetitleQRコードsidetitle
QR