コミックマーケット53の新刊
R-18小説 シャドウ達哉×ジョーカー淳 (流血描写あり)
「逆しまの鴉」【A5/108P/900円】
あなたはきっとこのまま、心の海の底へと沈んでいくだろう。
そんな未来を知ってか知らずか、己の汚さに気づいた悪魔よりもよほど、純粋にほほえむ。
召還されたアニマ、智恵の果実のように赤い目を持つシャドウ。
意識の世界に肉体を得、ジョーカーに導かれて仮面党の権力を握る。
憎しみという本能を忘れ、嘲笑う神に捨てられたジョーカーを救えるのは己のみ。
自らの翼を黒に染め、その鴉、逆しまに空を飛ぶ。
表紙はもちろん
、更紗三三さまに描いていただきました!!
さわやかかっこキレイ……><;;;;
こんな表紙ですが、中身はいつもの通りのドロドロエロエロな感じです><;;;
グノーシス神話を若干下敷きにしてある感じのお話です。
白くなめらかに艶やぐその肌は、蝋人形のようでいて、しかし柔らかくあたたかい。ようやく命が宿り、血が通ったのだ。少年は無邪気にその人形のほほに手を添えては、うっとりとその精密さに魅入っていた。
父が作った肉人形。その姿はずっと少年が求めていた人間の姿。復讐するには最適な兵器。
頭を傾げてガラス玉のように透き通った真っ赤な瞳をためつすかしつ。ルビーのように澄んだ赤の中に、橙色のランプの光が揺らめいた。
少年がうれしそうに膝を浮かせたり、体を傾けたりするたびにきしんだ音を立てる椅子。無邪気に抱きつくようにその大きな人形の膝に座り、安心しきったようにその人形に体を埋めて体温を感じる。
「父さん、素敵なプレゼントをありがとう」
――父なる嘲笑う神・ニャルラトホテプから与えられた人形、シャドウ。
「……なんであんたは……こんなに凍えている?」
人形は首を傾げた。ジョーカーは声をのみ、ふるえていた。
「君が……君が僕を抱きしめてくれなくなったからだよ……」
思わずジョーカーは口走ってしまったことに驚いてくちびるを噛んだ。
「あんたは……俺を愛している?」
だけど、確かめるようにそう質問する声はだんだんと生気を宿さない口調へと変わっていく。
「……わからない。でもきっと君は、周防達哉ではない何かなのだろうね……ようやく心の海の底から上がってきて、ぼんやりしているんだね」
この周防達哉は無原罪の達哉なのだ。知恵の女神より霊を与えられたばかりのアダムに等しい。
「……ねぇ、僕をあたためてよ……」
すがるように見上げられ、人形はじっとその暗い瞳を見つめた。
「……冷たい闇だ」
その黒髪をそっと、人形のあたたかな指が頭を抱えるように梳く。ジョーカーはまるで猫のように目を細め、小さく声をもらした。
そして、膝立ちになって上からじっくりとその無垢なる赤い瞳を見下ろし、その瞳をもっとよく見たくて、頬に手をかけた。
「……達哉……」
ジョーカーの顔が近づき、そのくちびるが人形の唇を覆うその前に、人形は小さくつぶやいた。その瞬間、真っ赤な瞳が突然見開かれた。
「……達哉?」
突然様子がおかしくなった人形に驚いてもう一度その顔を見上げた。
「おかしい……俺の中の記憶では……あんたは俺を憎んでいた……」
うつむいて頭を押さえ、荒く呼吸を始めた人形はうめき声を上げた。
ぼんやりとジョーカーの目の前にあった首に、片手で強く握りしめられたような後が浮かび上がった。
「っひ……!」
ジョーカーは悲鳴を上げて達哉の顔を見上げた。
「あんたは、俺を殺そうとしていた……?……本当に俺は、周防達哉なのか?」
ジョーカーは口をつぐみ、自分がおそろしいことをしてしまったのではないかとあわてて、その胸にすがりついた。
「……あんたは……誰だ……?俺は……あんたを知ってる……」
ジョーカーはおそるおそるくちびるを開く。
「……黒須……淳……十年前……君と遊んだことがある……」
この達哉は覚えているのかもしれない。十年前のことを。それをなぜかうれしいと思い、そのことをどうしても口に出させたいと願った。
「あんたは、本当に俺の記憶の……淳なのか?」
人形は目を細めてじっとジョーカーを見た。
「あんたは……俺の記憶の淳よりも……ずっと、穢れた瞳をしている……」
――ジョーカーとシャドウはお互いを愛し合い、憎みあい、
それゆえにジョーカーはシャドウの命に手をかけた。
「人間でできた花壇を持っているなんて、きっと僕くらいのものだろうね」
ジョーカーはうれしそうにクスクスと笑う。うめき声と舞い散るベルベットのように柔らかく光を吸い込む深紅の花びら、血に濡れた白い学ランの上着だけを羽織った姿で裸に剥いたシャドウの右足に寝そべっていた。両手で包み込むように陰茎を握る。抑え切れない飛沫がその隙間からドクドクと漏れ出していた。
「しかも……淫らな香りの噴水つきだ……」
上機嫌に大声で笑う。滑るように大きな人形の上をのぼる。つつっと細い指をはしらされると、鍛え上げられた腹筋はびくついた。
「……あったかい……」
ジョーカーはうれしそうに伸ばした手でそのたくましい胸筋を撫でる。その端にある小さな突起をほんの少しいじるだけでビクンとのけぞり、弱々しくうめいてシャドウはまたその陰茎からしぶきを飛ばす。
「やらしいなぁ、胸もそんなに感じるのかい?」
ジョーカーは顔も髪も淫らな香りを放つ白濁をどろりと滴らせながらも拭うことなく、ただ陰茎をしごくのをやめない。うっとりと左腕にもたれ、やわらかくあたたかな舌を愛しき獅子のわき腹に当てる。
「んむぅっ!!」
口いっぱいにつめられた薔薇の花びらで窒息しそうだった。終わらない快楽の責めに脳がどろどろと溶けていくようだ。獣のように輝く赤い瞳はブレて焦点を失っていた。
暴れようにもその両腕には釘のような魔法の薔薇が何本も腕にうちつけられていた。きっとこんな事をしなくてもシャドウは逃げはしなかったろうが、今は死を目の前にして発狂していた。
「僕の言う事ももう、わからないのだろうね……すごいや……君がこんな乱れた姿を見せるなんて」
指についた白濁をちゅぅっと吸って頬を赤らめ、ぞくりと体を振るわせる。殺されてもなにが変わるでもない忠実なこの獅子の普段みられぬ表情はジョーカーの性的欲求を満たしていく。
――嘲笑う神の命ずるままにシャドウを殺すたび、心が壊れていくジョーカー。
この穢れたループを断ち切らんとシャドウは立ち上がる。
魂の抜け殻を壇上から蹴り落とす。
ざわめく場内を無視してシャドウは言う。
「今日から貴様らの総統は俺だ」
四肢をもつれさせながら転がり落ちた無様な遺体をあわてて科学者たちが取り囲んだ。
「それがあんたらの元総統、疑うのなら存分に調べるがいい。しかし、どれだけ調べても答えは一つだ。貴様等がつい昨日まで従っていた人間がそのゴミ、ただそれだけだ」
こいつらもまた、噂でできたただの抜け殻だ。帽子のつばの向こうから黒い兵たちを見回した。
ジョーカーが与えてくれたセブンスの制服を脱ぎ捨て、ようやく一人前に己で手に入れた軍服を身につけていた。分厚いフェルト地のそれは多少動きにくいがそのきっちりとした縫製や布地が安心感を覚えさせる。胸には古めかしくも煌めく勲章。
それを見た者たちは誰もが息をのんだ。
シャドウが身につけたその軍服は間違いなく総統の物だったからだ。初めて功績をあげた若き日の勲章。かの総統はそれを大事に胸につけていた。誰もがそれを知っていた。
◇ ◆ ◇
「……シャドウ……シャドウなの!?」
仮面の下で目をむき、その姿を確認する。景色がぼやけて揺れる。視界がその姿をとらえることを拒否している。その背丈、その肩幅……帽子からのぞくその……風に揺れる栗色の髪。そして、一度たりとも忘れたことがない……智恵の実のごとく赤く光る……甘い瞳。
総統を名乗る男は人型兵器に囲まれたままその帽子のつばをつかみ、投げ捨てた。風が吹き、クラッシュキャップがさらわれていく。ふらりとその背筋を立て直し、日本刀の柄に手をおいてこちらをキッと見据えるその姿は……まごうことなく。
「ラストバタリオン改め、逆しまの鴉……総統、シャドウ」
うつむいたままのジョーカーに向かい、手を振り落とす。人型兵器が捕縛しようと背中のプロペラをうならせながらこちらに向かって飛んできた。クイーン・アクエリアスがその袖を握った瞬間、ジョーカーがそれを振り払う。
「なんで……なんで僕を……なんで僕を裏切ったあああああ!」
――嘲笑う神に振り回される二人は神話の海に沈んでいく。
そして訪れる自由落下。
逆しまなる鴉は地上に向けて翼を広げ、
空を飛ぶように自由自在に宙を飛ぶ。